山にめざめた栗駒山
山にめざめる日は突然に訪れる。
私の場合は、クルマの免許を取ったばかりのころ、栗駒方面へひとりでドライブに出かけ、あまりに栗駒山がよく見えたので誘われるかのように登ってしまったのがはじまり。
398号線の冬期閉鎖が解除されて間もない、新緑の頃だったと思う。
栗駒山は実は初めてではない。小学生の頃、家族で頂上まで登ったことがあった。その後も、何度か須川温泉から名残ガ原の自然観察路を訪れたが、頂上まで登ろうという発想には至らなかった。
あれから十数年。
再び登山道を辿った私の装備は、次のようなものだった。
●服装※はよく覚えていない。
●リュック※はミスドの景品のちっちゃいナイロン性。
●飲み物※くらいは何か持っていたと思う。
●足はプロケッツのシューズ※
こんな状況でも、須川温泉から昭和湖までは良かった。 その先には雪渓歩きが尾根まで続いていた。 その景観に「おお!」と感動し、それがエンジンとなってしまう。撤退どころかその先へ行きたくなった。
プロケッツのシューズはよく滑った。しかし雪国育ちで雪慣れしている身にとって、それは問題の内ではない。
途中、きちんとしたトレッキングスタイルの中年の女性2人組が、2、3の言葉を交わして追いこして行った。
少しして2人は足を止めるとコンパクトを取り出して「日に焼けちゃう」※と化粧直しをはじめた。
そうか、山は日焼けするのかとひとつ学んだ。
ずるっずるっと滑る歩きにくい雪渓を進むうち、どうしようもなく疲労困ぱいしてきた。足が重く※、歩みが遅くなる。ミスドのリュックからおやつの飴玉「小梅ちゃん」を見つけだして口に放った。 すると不思議と元気がでてきた。飴玉にこんなに明確に救われるとは思いもしなかったので、これもまた印象に強く残った。
雪渓の上でのこの二つの出来事が、はじめての自発的な山登りで学んだことだ。
それから雪渓も途切れ、風の強い尾根を過ぎて頂上に立った。
15、6年ぶりの1627メートル。来れちゃうんだ、と感じた。
「行こう」と思って目標に足を進めれば「来れちゃうんだ」とこの単純明快な結果を、改めて知り、そして何かが解けたように面白かった。