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女の山登り入門  残雪の山で道迷い

残雪の山で道迷い(あんなコワい思いはたくさん)


帰り道がぜんっぜん、わからない・・・。 残雪に被われた斜面は見渡す限り、ブナの森ばかりが続いている。 伐採された古い切り株がいくつかある。それは登りのときはなかったもので、 つまりここは帰り道ではないということは確か。 ドキドキしているのは、ルートを探して何度か同じ場所を登り下りしたからだけではなく ルートを見失ったことへの焦りがじわじわと胸を締め付けてきていたからだと思う。
コンパスも、25000分の1の地図も、しかもGPSも持っている。赤テープも持っている。 しかし赤テープは途中から付けはじめており、すべてを回収しながら下ってきた今となっては 自分がどこから下りてきたかも分からない。 現在地の割り出し方も本で勉強していたが、今はそれより1秒でも早くルートを探し出したい一心で 立ち止まるのがイヤだった。 GPS! GPSでトラックバックすればと思ったが、すでにこの周辺をさんざん歩き回ったあとで それをいちいちトラックバックされてはたまらない。必要なデータだけを保存してそれを利用すれば いいのだが、どうしたわけかその保存ができないのだ。
さんざん歩き回って、肩で息をしながら呆然として立ち尽くしてしまった。
さっきから誘惑のように2、3キロ先に道路が見えている。 コンパスをセットしてひたすら下って行けば、辿り着くだろう。しかし途中にはもあった。ダメだ。
携帯電話を取り出してみる。アンテナは3本。 試しに親へ「ちょっと遅くなるかもしれない」とメールを打ったが期待に反してメールは送信できなかった
早春の午後の空はがらんと晴れていた。1時間は彷徨っていて3時になろうとしている。 もう1時間、同じことをしていたら日も陰ってくるな・・・。
冷静にならないと。冷静、冷静、冷静。
死ぬ可能性もあるのだろうか。ふと恐怖が現実味を帯びてくる。
いや、私にはレインウエアがあるし、ガスもあるし、ヘッドライトもある。何とかなるさと考える。 しかし、そこらには灰色の幹にクマのつめ痕が生々しく残されたブナがたくさん点在していた。 ここはクマの住処のまっただ中なのだ。日が暮れてクマが活動しはじめたら今以上に取り乱すのは必至である。 何が何でも、明るい内にここから抜け出さないと。
冷静に、冷静に、冷静に。
今ある情報から何かつかめないかと、デジカメの撮影記録を辿ってみた。 私は、必ず日付けを入れているから、目印となりそうな場所を通過した時間が特定できれば GPSでその、迷う前の地点へ行ける。
はやる気持ちをとにかく冷静にとなだめながらデジカメのデータを探した。
問題はGPSだったが、冷静になって見てみればメモリーがいっぱいになっていて これ以上の保存ができないだけのことだった。急いでいくつかのデータを消去した。
カメラの液晶画面に、往路で面白がって撮影した奇妙な形の木の写真を見つけた。せかせかと拡大しその時刻を調べ、GPSの該当するデータの保存を試みた。セーブ完了した!「よかった、よかった」大きなため息といっしょに声がでる。
「あー、そうだそうだ、このルートだ」
いちいち声に出して、GPSの矢印を夢中で辿った。
GPSは迷うことなくルートを示し続け、やがてもう迷うこともない林道まで出ることができた。
「よかった、よかった」
何度も声に出して見覚えのあるルートを急いで帰った。今日の入山者はどうやら私だけだったようだ。 冷静になれなかったら、と考えると心底ぞっとした。
昨年、雪が積もりはじめた高下岳に行ったことを思い出した。「雪があるときにトレースをたよりに行くと トレースが消えることがあるから、危険だ」と教えられたことを、 これ以上にない苦い経験を通して実感した。 最初、残雪期の道迷いの危険を教えられたときは「ああ、そうか、そんな危険があるんだな」と素直に心に止めたつもりだった。 しかしたいてい、こうした危険があることは分かっていてもその「入り口」はいつも分かりにくい。 おそらく、その入り口を分からなくさせているのは「まさか自分がそんな危険に」と 思う根拠のない思い上がりなのだろう。

山のアクシデント


□ 万が一、に至らないための装備

山に入るための装備すべてが「万が一」を防ぐためにある。まず第一には装備は迷わず山用のものを 揃えよう。似たようなものがホームセンターでイチキュッパだとしても、誘惑されてはイケナイ。 ここぞ!というギリギリの状態を乗り切るために山道具は開発されているのだから。

□万が一、を想定した装備(夏山)

◎非常食、◎ヘッドランプ、◎レインウエア、◎ツェルト(簡易テント)、◎GPS、◎高度計
◎冷静な心(これが大前提ですな)
◎経験

備えあれば憂い無し、確かにその通り。ただ、道具はあくまで自分の能力の補佐役でしかない。これを使う自分あっての道具です。つまり、緊急事態に陥った時、冷静な判断ができる自分を保てることが必要かと。冷静な判断とは、精神力もさることながら経験値にも比例するものかもしれません。はじめての領域に踏み込むときは必ず初心者は経験者とともに行動して、しっかり勉強させてもらいましょう。
すべてが命にかかわることです。