初冬山でインナーの力を知る
山中でテント泊。
背中から寒さが張り付いていて、一向に体が温まらない。
初めて冬山デビューを2月の田代岳で果たし、その帰りのクルマの中、後部座席で羽織れる上着は全部羽織ってもなお、寒くてならなかった。他のメンバーは上着など脱いでおり、そのくつろいだ様子からは寒そうな気配は見られない。
冬山が相当寒いだろうことは当然予想できたので、なるべく厚手のシャツを着ていたのだが、それは山用の高機能なものにはほど遠い普段使いのインナーで、山行中の汗が乾ききれずに生地を冷たく湿らせていた。
クルマが道の駅に立ち寄るのを待って、トイレでその湿ったシャツを着替えた。すると、それまで滞っていたものがふわっとほぐれたかのように、体のぬくもりが乾いたシャツに蓄えられはじめるのが分かった。
そのあまりに劇的な回復にほっとしていると、誰かが冬用インナーについて教えてくれた。汗をかいてもすぐに乾き、そしてとにかく暖かいそうである。そして、冬は汗で衣類が濡れることがいかにリスクのあることかをはじめて実感とともに知ることができた。
もし、クルマで感じた寒さが山中であったら、湿った生地に体温をどんどん奪われて体力を消耗させることになる。状況によっては命にさえ関わってくる危険だってあるのだそうだ。
山の道具はどれもこれも高価で、一度に揃えるなどとても難しい。だから、登山靴、レインウエア、ザックと必要性を実感したものから少しずつ買いそろえ続け、夏山を日帰りで登るにはほぼ不自由しないぐらいに道具は揃った。
そして冬山の世界に踏み出すにあたり、また一つ一つ揃えることになったのだが、まさか衣類をこんなに早い段階で購入するとは思ってもいなかった。衣類については、全く重要性を感じていなかったので、とても意外だったが、おかげで体が寒くてたまらないという体験は、このあとせずに済んだ。
おそらく、この山行の事前に誰かに山用インナーの重要性を説かれても、きっと私は予算の都合上、その勧めに従うことはなかったと思う。ちょっと寒いくらい、我慢すればなんとかなる。と。確かに、何とかなる場合の方が多いだろう。しかし、何が起こるか分からないのが現実の常である。山の場合はそこに生死の境目がくっきりと引かれることになることを、忘れないようにしたい。