
ガイドツアー恒例でもあるのが秋の甑山。
標高980m。
低山に分類されるであろう山ではあるが、残丘という成り立ちもあって山容は急峻。
そして、男甑と女甑からなる双耳峰を結ぶ稜線は痩せている。
このためこの標高にしては展望がとても良いのが魅力。
男甑山を登れば、東から南西にかけて視界が開けており、神室連峰や遠く月山まで一望できて実に爽快だ。
だが何よりの見どころは、女甑山の奇峰っぷりだろう。
それと、男甑山のシンボルとも言える烏帽子岩。
しかしこの山域を巡る楽しみは、そればかりではない。
山麓に広がる変化に富んだ森や、庭園のような池などなど。
訪れるほどに味わい深く魅力を増していくのが、ここ甑山。
昨年までは、秋田県側の甑林道終点を起点としていたのだが、今年からは山形県側の前森山林道終点を起点としている。
というのも比較的、林道の状態がいいことと、出発して10分ほどのところにトイレがあるので安心でもあるため。
この秋も、県内外の皆様とわいわいと楽しく遊んでまいりました!
前森山林道終点からコルへ

6月の山開き以来の甑山である。
さすがの前森山林道も、今年の大雨によってところどころで雨水でえぐられ、轍も深くなっていた。
車高が高い車じゃないと、車体の腹が擦れる箇所もあり走行には注意が必要。
8時20分、登山口を出発。
早くもはじまるブナの美林のなかを、10分ほどゆるく登ればお馴染みの緑の三角屋根。
悠森舎でトイレ休憩。
ここは、ブナの二次林が広がって、黄葉のはじまった梢には朝日が差し込んで美しい。

しばらくはブナのたおやかな美林を歩く。
ブナが好む地形は、割と人にとっても優しく歩きやすい。
徐々に岩が出てきて歩きにくいなと思う頃、森の主役はカツラにバトンタッチ。
カツラの甘い香りに深呼吸しながら歩く。

森の巨人たち100選でもある女甑の大カツラ。
この巨木も大きな枝や幹が崩れつつあって、年々小さくなってきている。
巨木の本体の中などは人が入れるほど朽ちている。
とはいえカツラならではの萌芽で、まだまだがんばってくれそう。

カツラの巨木と岩の森が終わると、緩かった斜度は徐々に勾配を増していく。
100mほど、急登の尾根となる。
途中、立ち止まるたびに濃くなっていく紅葉に励まされ、わいわいと登っていく。

特に勾配がますと間もなく、コルに出る。
コルの手前の倒木には、見事なツキヨタケ。
若いうちのツキヨタケは、暗がりで仄かに発光するので、おみやげにおすすめするも、
誰も手も袋も出さない。
まあ、毒キノコだしね。

9時25分、コル到着〜。
ここまでの急登から解放され、大いに盛り上がる瞬間だ。
かっこいい急登を男甑山へ

コルは、男甑と女甑の分岐でもある。
わたしのガイドツアーでは、女甑山と男甑山のカップルコンプリート登山は中級レベル。
今回は、男甑山だけを登る、いわば甑山入門コースだ。
なのでここから男甑へ。

コルからしばらくは、そこそこ急登。
そのうち、手も使っての四輪駆動で登るような急登になる。
今回1番のスパイスの効いた区間だ。楽しもう。
振り返れば女甑、眼下には名勝沼も。
梢の奥には冠雪した鳥海山もチラ見え。
がんばった分のご褒美があるのが、このコースのうれしいところ。

最後の急登手前は、かっこいい痩せ尾根。
なのでみんなで平均台ウォークポーズ。

先頭で振り返ると、みんなの頭しか見えないほどの急登だ。
木の根っこをフォールドに、クライミング気分を味わえる。

結構、楽しめる。
なんなら、この倍くらいこの木の根っこクライミングを楽しみたいくらいだ。

コルから急斜面を100mほど上がると、展望のよいピークに出る。
女甑の謁見の間とでも呼ぼうか。
女甑は錦の衣替え完了まであと少しかかりそう。

落ちないでね。
と、声かけ合いながら女甑山と記念写真。

ここまでの急登が嘘のような、平和な尾根歩きに。
彩る紅葉も華やいで、のんびりと秋山を味わう。

10時55分、男甑山到着!
烏帽子岩と各自で記念写真を楽しむ。
先に到着した男性パーティと入れ違いの山頂。
他に誰もいないので、早めのランチタイムに。
見渡す彼方には月山。
雲に隠れて神室連峰。
眼下には、前森山をアクセントに色づき始めた紅葉樹の森。

そして、数日前のSNSを賑わせていた狂い咲きのイワカガミも。
秋の日差しと、急登クリアの開放感から、
ランチタイムは大いに賑わって、せっかくなのでちょっと長めに過ごす。
急斜面を下って名勝沼へ

さて、本日の登りは終了し、あとはひたすら下る。
県境分岐まで200mほどの急斜面は、なかなか手強い。
ともすれば修行モードになるしかないのだが、足を止め顔をあげれば紅葉の景色。
梢の奥には、日本海の海岸線に風車が小さく並び、その奥にうっすらと男鹿半島。
男鹿から参加のメンバーが感慨深く、目をこらす。

これから紅葉する木と、落葉し白銀のレースのような木と。

ブナのカウチで撮影会。

この四姉妹が出てくると、急斜面も終了だ。
このあとなだらかに尾根を歩いて、県境分岐へ。

県境分岐から、名勝沼へ向かう。
ここで尾根から下りるのだが、せっかくの急斜面。
ロープでゴボウ下降体験を。

急峻な地形のあとは、穏やかな森歩き。
このあたりは、ヤマブドウが多いので、足元には赤く大きな落葉があって華やかだ。
残念ながら、ブドウはゲットならず。

甑林道方面への登山道の分岐を過ぎると、また森の雰囲気が変わる。
沢地形が集中する平坦な地形には、シダが繁り、頭上はサワグルミが優勢。
上の画像は、オオウバユリを見つけたメンバー。
まだ、タネがぎっしりだったので、オオウバユリシャワーを楽しむ。

盛大にオオウバユリシャワーのあとは、なぜか拝みたくなるらしく。

ウィルソンカツラから
「こっち向いてー!」

「え? そんなところに?」

みんなも「そんなところに」イン。
大人が8人、余裕で入れる。

ウィルソンカツラからすぐ、名勝沼。
さっき、尾根から小さく見下ろしていた沼。
きょうは、水量が多いらしく、足元まで水が迫っていた。
殿様街道を通ってゴール

名勝沼から殿様街道へのルートは、地形図に記載がない。
なので、踏み跡を拾っていくことになる。
いつも使っている反時計回りコースは、ブナの倒木があるのと、今日の水量だと踏み跡も水没しているかもしれず、時計回りルートへ。
時計回りルートも取り付きは、水没。
ちょっと藪を漕いで回り込む。

殿様街道へ出て、甑峠の手前から伐採作業が入っている。
歩道にかかる箇所はほんの10mか15mほどなのだが、深い泥で足が結構沈む。
数日前の先行者が敷いたらしい杉の枝を踏むも、沈むので周辺にあった木切れを敷いてドロドロゾーンを渡り切る。
かなり水分を含んでいる泥で、こりゃちょっとやそっとでは乾かないだろう。

甑峠到着。
標柱がクマにかなりほじられて、こんな有様に。
今年で見納めかということで、がんばる標柱と記念撮影。

ふたたび山形県に入る。
ブナの二次林が美しい場所だ。
足をとめ、美しい木立ちを堪能する。
足元には、いまだにびっしりと昨年のブナの実のカラが敷き詰められているが、今年のものはまったくない。
ブナの実は凶作というよりも、県内のほとんどの森で結実ゼロだったと思う。
15時、三角屋根の悠森舎に戻ってきた。
駐車場まであとすぐである。
こんな面白い山があるなんて!とうれしい言葉が飛び交う。
次は新緑のころにもぜひ!
タイミングがあえば、根曲りタケのタケノコ、あるいはサンカヨウの群落に出会える。




