登山天気予報、太陽マークが出ているのに「て▲くらC」ってどういうことよ?
そんなとき、登山天気評価を押し下げている要因が「風」だったりする。
やっぱり登山は中止にするべき?
実際のところどうなんだろうかと風力計を相棒に、風速12m/s予報の秋田駒ケ岳へ国見コースから登ってみた。
このコースに限っての結論から言えば、この地形条件ならば登れなくもない。というのが現役登山ガイドのわたしの主観的感想。
その一方で、同じく風速12m/sの予報があった神室山ガイドツアーについては中止にしたばかり。
同じ風速の予報でも、登山を中止にするかどうかの判断の目安についてまとめる。
風速による行動への影響
風速について
風速というのは一秒間に風が動く距離を示している。
つまり風速12m/sであれば、12m×3600秒=43,200m=43km。
感覚としては時速43kmのスピードで走る車の窓から、手を出した時に受ける風の強さである。
山岳気象の第一人者、猪熊氏の著書「山岳気象大全」によれば、風速ごとの人への影響は次の通り。
猪熊隆之氏:山岳気象大全より
- 平均風速10~15m/s未満:風に向かって歩きにくい。傘がさせない。
- 平均風速15~20m/s未満:風に向かって歩けない。転倒することも。
- 平均風速20~25m/s未満:しっかりと身体を確保しないと転倒する。
風速は「平均」風速のこと
風速12m/sの予報だからと言って、常に12m/sの風が吹いているわけではない。
「風速」は10分間に吹く風の平均風速のこと。
「風の息」と言って風の強さにも緩急がある。天気予報を見れば風を表す用語に、平均風速のほか瞬間風速という言葉も出てくる。
この瞬間風速というのは、平均風速が10分間の平均値であることに対し、3秒間の平均値のなかで最大な値を示す。
(気象庁HPより)
したがって気象予報で発表される「平均風速」の数値よりも、弱い風も吹けば逆に1.5倍からときには3倍の風が吹く場合もあることを意識して、山行判断することが必要となる。
平均風速の風の息を秋田駒ケ岳国見コースで体感してみた
秋田駒ケ岳の2023年6月18日の天気予報では風速12m/sの予報。これは山頂(標高1637m)付近の予報ではある。
森林限界を越える1300m付近、外輪コース上の樹林帯を抜けるあたりから風が強まったなという印象。さっそく風速計を取り出してみる。
↑こちらわたしが使っている風速計。アマゾンで2300円(税抜)くらい。
OTraki 風速計 GM816風速4〜5m/s
風が強いなと感じて風速を測ったところ4~5m/sだった。
行動に支障はないが、髪が長い人だと髪がばたついて邪魔に思う風速。
風速8m\s前後
しばらくするといっそう風が強まったので計測する。8m/s前後。びゅうびゅうと吹きつけて風圧をしっかり感じる。
薄手のジャケットを羽織ろうとすれば、ジャケットが水平にたなびく。もちろん羽織りにくい。
風速8m/sぐらいになると、高速道路では吹き流しが水平にたなびくほどの風速だ。
これを知っていれば、ジャケットのたなびきかたからも風速を知ることができる。
しかし8〜9m/sぐらいでは登山の歩行には支障があるほどではない。快適ではないが。
風速12m/s前後
さらに風が強く吹き始めたところを計測すると12m/前後と、本日の山頂の予報値となった。
写真を撮ろうとすると、スマホなどは煽られて画像がブレそうになる。
横から吹き付ける風で、しっかりと地面を踏み締めて歩かないとよろめくこともあった。
この日のわたしの体重は荷物も入れれば56kgぐらい。体重がもっと軽い人だと大変だろう。
このとき歩いていた地形は広い稜線で、よろけたとしても転落するような箇所はない。
なのでこの風速でも地形によっては大きなリスクにはなりにくいと思った。
風速15m/s前後
さて天気予報で示される風速は、10分間に吹く風の平均値である。
したがって12m/sの予報でもその1.2倍、1.5倍、ときには2倍の風が吹くことも念頭に入れねばならない。
大焼砂の吹きっ晒しを通過中、呼吸ができないくらいの風力となったのでさっそく計測。
15~16m/sである。歩行はできるが、ふんばらないと一歩進むたびに体が風下へ押されていく。
耐風姿勢をとるほどではないものの、かなり歩きにくい。
息がしにくいので風に対して顔の角度を変えてみると、今度は鼻穴に吹き込む風に鼻水が飛ばされそうになる。
国見コースの大焼砂のような、広い尾根だからこの風速でもリスクは少ないものの、神室山の山頂直下の痩せ尾根や岩場ではかなりリスクが高まるだろう風速だ。
風速実測山行のまとめ
風速8m/sの予報
痩せ尾根や岩場など滑落転落しやすいような地形リスクの高いコースは、十分な注意が必要になりはじめる。
おそらく4m/s〜12m/sぐらいの範囲の風が吹く可能性が高い。
12m/s前後になれば体重の軽い人ではよろめきはじめる。
風速12m/sの予報
5m/s〜16m/sの風が吹く可能性が高い。
転落滑落などの地形リスクがあるコースならば、山行を見送ったほうが賢明かと私個人的には考える。
風が強いというだけでほかのリスクなどが低いコースの場合は、十分に注意をしながら登山できるかと考える。あまり楽しいとは思えないけれど。。。
風速15m/sの予報
私であれば耐風訓練などの目的でもない限りその山域には行かないかな。。。
個人差について
風速による催行判断は、登山者の経験値や力量などでも大きく異なる。
とくに厳冬期の登山経験者は、強風下で行動しざるをえない経験も多いこともあり風への経験値が高いように思える。
風の予報で登山を迷ったとき、他人のアドバイスを受ける場合はその人の経験値なども考慮して、そのアドバイスが自分自身に合うかどうかも見極める必要があるだろう。
上の画像は、風で波頭が立つ阿弥陀池の湖面の様子。波頭は割れて白くなっている部分もちらほら。
波頭が白くなりはじめる風速が5.5〜8m/s。
阿弥陀池周辺は、男女岳と外輪山に挟まれてちょうど風の抜け道になっている。
このため八合目から新道コースを使って登れば、ようやくなだらかな木道に出たなとホッとするのも束の間、強風で引き返すということもある場所だ。
夏山は軽いウィンドブレーカーがあると便利
風の強い日や、霧雨の登山にあると重宝するのがウインドシェル。ウインドブレーカーとも言う。
風速1m/sあたりで体感温度が1度さがる。
夏とはいえ、山の稜線で風速10m/s前後の風が吹けば、体感温度は10度も下がることになり思いのほか寒さを感じる。
こんなときは防風対策にレインウエアを着ることが多い。
風がブロックされるととたんに体感温度は無風状態の気温に戻る。
が、今度はレインウエアを着ているため暑く感じる。
ゴアテックス素材でムレを逃すとはいえ、無駄な汗はかきたくない。
しかし脱げば冷える。うーむ。
そこでウインドシェルだ。
レインウエアよりも薄い生地なので、風をブロックしながらも蒸れずに快適に行動できる。
重さもなんと40gで手のひら程度の大きさに畳むことができるものもあるのだ。
これならポケットや天蓋に入れておけるサイズ。
必要なときすぐに取り出すことができて山ではとても使い勝手がよい。
わたしは厚さ別に二つのウインドシェルを使い分けている。
極薄タイプと、これよりやや厚いタイプ。
モンベル:ライトウインドパーカ
ペラッペラに薄いものの、風やガスの霧雨のときなどそこそこ適度に風や水滴を防いでくれるので出番が多い。
モンベル ウインドシェル脱いでクシャクシャっとザックやポケットにつっこんでも大丈夫なところも、スピーディーさが求められる山においてラク。
フードのあるパーカタイプとフードなしのジャケットタイプがあって、より軽くしたいならフードのないジャケットタイプになる。
わたしはフード付き。風が強く帽子が飛ばされそうになとき、このフードを被る。髪が長いこともあり、風で髪が暴れるのを抑えるにもちょうどいい。
たたむと手のひらサイズ。
畳み方はカンタンで、ウエアについているポケットにぎゅうぎゅうと押し込むだけ。
シワは着れば取れる。
これで重さは50gぐらい。
モデルチェンジでわたしの着ているこのタイプはなくなったが、45gとさらに軽量なモデルが登場している。
気になる方はこちらのモンベルさんでチェックを。
ゴアテックスではないが、ちょっとの霧雨や小雨なら弾く程度の撥水性もある。
マムート グラナイト ソフトシェル
モンベルのウインドシェルではちょっと寒い、とはいえレインウエアを着るには暑い。
そんなときのためのちょっと厚手のジャケット。
マムート グラナイトソフトシェル重さは210gで、レインウエアよりも数十グラム軽い程度。
このちょい厚を持っていくか、またはモンベルの極薄ウインドシェルに一枚薄手のウエアをレイヤリングするか。
そんな選択になるだろう。
山はレイヤリングできるほうが良いとすれば、1枚で風と寒さへの対応が完了できるこのちょい厚シェルよりは、「薄いウインドシェル+もう一枚」が使い勝手が良い。
とはいえ、すぐに羽織りたいときに2枚も着るのも手間。
薄手か厚手か。
山行の状況によってそのあたりは臨機応変に使い分けることになる。
悩ましい山のウエアのチョイスも「経験」という引き出しが増えるほど失敗が減っていくものなのだ。
マムート ソフトシェル収納サイズ比べ
左からモンベルのウインドシェル、白いのがマムートのちょい厚シェル、右の赤がレインウエア。
薄手のウインドシェルは、モンベル以外にも最近はマムートやミレーなどからもリリースされている。
お気に入りのシェルで、風の日も快適で安全な登山を!
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