ああそれ買ったのか・・・ガイドのつぶやき
本当ならばずぶずぶと膝まで沈んでしまって身動きがとれないような深雪で、ものは試しとスノーシューを履いてみるとする。
なんと。
嘘のように雪への沈み込みがなくなって、自由に雪原を歩き回ることができるではないか。ほとんどの人が、その開放感に驚きスノーシューが欲しくなるもの。
思わずネットでポチっちゃいました。うれしそうにそのスノーシューを携えて、ツアーに参加してくださるお客様もいらっしゃいます。
いい買い物しましたね。と言いたいところなのですが、「ああ・・・これ買ったのか」と内心ちょっと残念に思う買い物をしてしまうお客様も、ときどきいらっしゃいます。
こんなことのないようにと、わたしのツアーでは初心者向け雪山ハイキングでスノーシューを無料レンタルしたり、雪山入門教室などを開いたりしております。
それでもときどき、残念な買い物をしてしまうお客様がいらっしゃいますので、スノーシューの選び方をまとめてみました。
ぜひ楽しいスノーライフにお役立てください(^^)
スノーシューとは
雪山や雪原を歩くために足にっ装着するもので、いわば西洋の「かんじき」。
積雪期は、積もりたての雪の上を歩くとずぼずぼと足が沈んでしまう。ところがスノーシューを履くことで、あまり沈みこまずにラクに雪面を歩き回ることができる。
雪面を沈み込まずに歩き回れるのは、スノーシューによって雪面への接地面積が増え、それが浮力になるため。雪面への面積が大きければ大きいほど、この浮力が増す。
したがって、ワカンよりもスノーシュー、スノーシューよりも山スキーが浮力で勝る。
雪山や雪国の雪原では、一晩で30センチ以上も積雪があるなんてことはザラにある。
スノーシューやワカンなしでは、膝上以上もの雪をラッセルしなければならない。
ところがこうしたギアを履くことで、沈み込みが少なくなることによって、ラッセルの労力も激減し雪山あそびのフィールドがぐんと広がるのだ。
ワカンとのちがい
「和かんじき」「輪かんじき」「ワカン」などと呼ばれるのは、日本で昔から使われてきたかんじきのこと。
かつては木の枝などで作られていたが、最近はアウトドア用にアルミ製のものや、プラスチック製のものなどもラインナップされている。
ワカンはスノーシューに比べるとフレームが小さい分、雪への沈み込みは深くなるものの、急峻な地形の多い日本の山地においては、取り回しが効き、また斜面へのキックステップや、アイゼンとの併用も可能なため汎用的な使い方ができるのがメリット。
また軽量なため、携帯性にも優れる。
地形や雪質、ツアー内容などによってスノーシューと使い分けると良い。
スノーシューの構造
スノーシューを選ぶにあたり、選ぶポイントとなるのがスノーシューの構造と形状、素材だ。まずはスノーシューはどのような構造になっているのか知っておくと、選ぶ際に何に着目するべきかの判断がしやすくなる。
ここではざっくりとその構造を説明する。
フレーム・デッキ
スノーシューの浮力の要となるのが、枠組みとなるフレームと、その枠の内側に張られた生地などからなるデッキ部分。
大きく分けて2種類があり、ひとつはフレーム部分が金属で、デッキ部分に保水しない特殊な生地を組み合わせた製品、もうひとつはフレームとデッキ部分が一体化した強化樹脂タイプの製品だ。
それぞれメリットデメリットがあるので、後述を参考に。
バインディング(ビンディング)
スノーシューに靴を取り付ける部位。
商品によって取り付け方が異なるので、フィールドに出る前に必ず取り付け方を確認する。
ほとんどは、つま先部分を固定させてから、踵部分を固定させるようにできている。選ぶポイントとしては雪山シーンでグローブをしたまま、できれば容易に素早く脱着できること。
クランポン
バインディングの裏、ちょうど足の裏部分にある爪。
ヒールリフト
山岳用スノーシューに装備されてある。斜度が増し、ふくらはぎへの負担が強くなるようなシーンで活用する。
ストックのグリップ部分で立ったままヒールリフトを起こしたり倒したりできるものも。ストックを購入するさいには、グリップ部分がそのような形状になっているものを選ぶと良い。
後悔しないための選ぶポイント6つ
スノーシューをいざ買おうとしてみると、どれもこれも似たような形状なのに、かたや1万円ぐらいのモデルからなかには7万円近くもするようなモデルまでと、価格に結構な開きがあることに、まず面食らう。
似たような形状なのに、この価格差って何なの?と不思議に思いながらもついつい手頃な価格の商品を選んでしまうと、自分が行きたい山域には使いにくかったり、ほしい機能がなかったりと後悔することに。。。
そんなことにならないように、選ぶポイントを以下にまとめてみた。
①山岳用か雪原用か
①−1フレームとブレードのここをチェック
フレームの裏側がブレード(刃)になっていて、雪面へのグリップ力がより強化されているのが山岳用。金属フレームと強化樹脂のものがある。
樹脂製スノーシューのブレード
金属製スノーシューのブレード
一方雪原用はフレームがパイプ状のものが多く、爪もビンディングの底のクランポンのみのタイプがほとんど。
このため、斜度のある山腹のトラバースや急な地形などを通過する際に、雪面へ食いつくための爪が少なくなるため、滑落のリスクが高くなる。
雪原用は価格もリーズナブルなため、ついつい選んでしまう人もいるが、もし登山が目的ならば山岳用を選ぶようにしたい。
雪原用スノーシュー
①−2ヒールリフターの有無をチェック
斜度が増してきた時に、ヒールリフターを起こすことでふくらはぎへの負担を軽減させ、登りがとても楽になるうれしい機能。登山が目的であればぜひ欲しい。
②何を優先させたいか
②−1取り回し優先か浮遊感優先かでサイズを選ぶ
雪への接地面積が大きいほど雪への沈み込みが少なくなり、ラッセルが楽になる一方で樹林帯や急斜面での取り回しがしにくくなる。
山岳用ならば女性なら長さ56センチ(22インチ)前後、体格のいい男性や体重が100キロ前後だったり、どうしても浮力が欲しいならば64センチ(25インチ)前後以上が目安。
なお、私は新雪でかなりのラッセルが予想される場合、地形的に危険のない山域ならば雪原用の、軽くてやや大きめのスノーシューを選ぶ。コース中に滑落しそうな箇所やトラバースがない場合は、雪原向けでも問題ない。
ぱふぱふのパウダースノーなら、スノーシューの裏のブレードが多くても、噛み込むための雪がさらさらと崩れてしまうので、せっかくのブレードが活かしきれない。むしろ浮力が少しでもあるほうが楽である。
②−2軽さ重視か強度重視か
フレームが金属のものと、樹脂つまり強化プラスチックのものがある。
金属フレーム
金属のものは、樹脂製に比べるとやや重くなる傾向はあるが、なんと言っても丈夫。そしてフレームがそのままブレードになっており、トラバース時などは雪面にしっかりと食いつく安心感がある。
樹脂フレーム
樹脂製はとにかく軽い製品が多い。残雪期など雪が締まってきたりあるいは急斜面などでスノーシューを外して背負って登るシーンなどでは、この軽さがありがたい。樹脂とはいえ頑丈な素材となっているが、金属製に比べると頑丈さの点では劣ると言わざるを得ない。
私自身、軽さに惹かれて強化樹脂製のスノーシューを使っていたところ、うっかりバックしてしまった際に、スノーシューの後部が雪面に縦に刺さってしまい、フレームデッキ部分に強い負荷をかけてしまった。
このとき、フレームそのものの破損はなかったが、裏側の金具を止めている箇所が破損してしまった経験がある。樹脂製の軽さを選ぶ場合は、無理なバックをしないよう注意すれば問題ない。
②−3収納時のコンパクトさを重視するかどうか
雪が硬く締まる残雪期や、斜度が強い箇所、バックカントリーボードをする場合などで、脱いだスノーシューをザックに括り付けて担ぐことになる。
バインディングの爪先装着部分が柔らかい素材ならば、スノーシューの左右2枚を重ねるとかなり薄くコンパクトに収納できる。
コンパクトに収められることで、木の枝などへのひっかかりや、バックカントリーならば邪魔にならず滑りにより集中できる。
②−4脱着のし易さ
風のない晴れた日ならばよいが、吹雪のなかのギアの脱着はなかなかストレス。ましてや防寒のために手袋をしているため、扱いにくい脱着タイプだとついついグローブを外して作業したくなるが、凍傷のリスクもあるのでできれば、脱着のしやすさは確認して購入したい。
踵部分のセットはどのモデルもほぼ同じだが、爪先部分のセットはさまざまなタイプがあり、この形状によって価格の差が生じるものもある。
ボア(BOA)フィットシステム
丸いボタンをカチッと押して回すとワイヤーによって、つま先部分のカバーが靴にフィットするタイプ。
グローブしたまま操作できてラク。
最後に踵のバックルを閉める。
アトラスのボアモデルの踵バックルは、このように↑なっている。
ストラップを後方へ強く引っ張ってテンションをかけていけば、ちょうどいいところでストラップの穴に、バックルの突起部分がはまる。
メッシュに足を入れるだけのMSRのパラゴンバインディング
MSRで採用されている。あらかじめ靴にメッシュのバスケット部分を合わせておけば、それ以降はつま先を入れて、踵を止めるだけで装着完了と、スピーディー。
↑強くテンションかけて引っ張って、ストラップの穴に金具をはめる。
↑余ったストラップは輪っか部分に収めておく。最初だけ爪先部分をこのように調整しておけば、以降はネット部分に爪先を入れて踵を締めるだけ。
踵部分のストラップを後方へ強く引っ張って、金具の突起にひっかける。
↑余ったストラップ部分は輪っかに収納して完了。
ちなみに私はこのモデルを使っている。
ガイド中は職業柄、素早く脱着することが望ましいので。
2〜3本のストラップ式
つま先と甲の部分を複数のストラップで止めるタイプ。
ストラップそれぞれ一本ずつ、強く引っ張って穴に金具をひっかける。
↑最後に踵部分のストラップを金具にはめて完了。
作業の手数が多い分、慣れていないと手間取るが、シンプルな構造のためどれかひとつストラップが破損してもほかのストラップが生きていれば、多少歩きにくくなるかもしれないが行動可能というバックアップにもなる。
ストラップ1本での締め上げ式
甲の部分を一本の長いストラップを交差させることで、つま先から甲までを一本のストラップで締め上げるタイプ。
↑このタイプは、最初に黄色いヒモをひっぱってストラップを緩める。
靴を入れてから、黒いストラップを引いて爪先を固定させる。
余ったストラップは邪魔にならないよう、リングに通しておく。
最後に踵のストラップを強く後方へ引っ張りながら、金具にはめて完了。
ラチェットバックル
つま先と甲の部分をストラップ2〜3本で締めるタイプで、ラチェットバックルになっているもの。スキーブーツやスノーボードのバインディングなどでお馴染みの方法。
で、どれがおすすめ?
ここまでつらつらと、スノーシューを選ぶポイントを説明してきたが、実際に試してみないと何がいいのかピンとこない、というのが実際かも。
さくっとおすすめを選びたい人のため、さくっと商品をご紹介しますね。
ちなみに2025年1月現在まで、わたしの独断と偏見あるかもしれないリコメンドということはご了承ください。
登山用エントリーモデルにコスパ抜群の商品
モンベル アルパインスノーシュー56
どうしても円安のご時世、海外ブランドのスノーシューはびっくりするようなお値段。
そんななか、われらがモンベルのこのモデルは2万円を切るコスパのよさ!
サイズも手頃で、形状も歩行の邪魔にならないようスリム設計。まだスノーシュー歩行に慣れていない初心者や女性にも歩きやすいうれしいフォルムです。
バインディングは甲の部分にストラップ2本と、踵をストラップ1本なので脱着には若干手数は多いものの、登山用モデルでこの価格は「買い」だと思う。
ATLASレンジBC(取扱:モンベル)
モンベルのアルパインスノーシュー56よりもう少し、脱着のしやすさとオシャレ感が欲しい場合はATLASのレンジがおすすめ。
このバイディングの甲の部分はストラップ1本締めなので、先に紹介したアルパインスノーシュー56よりも脱着がスムーズ。より脱着のしやすさを選ぶなら5000円ほどアップするが、BOAシステムのバインディングを。
ただしBOAシステムのほうは、持ち運びの際に重ねた時やや嵩張る。なので、持ち運び重視ならレンジBC、持ち運びのコンパクトさより脱着重視ならBOAシステム採用のレンジMTLシリーズをチョイス。
脱着の良さも持ち運びのコンパクトさもほしいなら・・・
MSRライトニングアッセント
数年前まで3万円台で買えたのが、2025年現在では7万円近くまで吊り上がってしまった。とほほ。予算ある方、満足度の高い商品です。
バインディングがこの、メッシュタイプのモデルは一度つま先部分を合わせておけば、あとは踵部分のストラップのみで脱着完了する。
そして持ち運びの際も左右コンパクトに収納できる。
若干スリム設計の女性向けタイプもある。
軽さと脱着がラクでお値段もほどほどがいい方へ
ATLASヘリウムMTL(取扱い:モンベル)
こちらも数年前まで3万円ぐらいだったのが、円安のせいか2025年現在で39,000円に。それでもMSRのべらぼうな価格を見たあとでは、お手頃に思えてしまう。。。
持った瞬間「あ!軽い」と思わず衝動買いしたくなるほどの、軽量感が魅力。というのもフレームデッキが樹脂製なので。
そしてBOAシステムならではの脱着の良さが魅力。ワイヤーの細さに不安を覚えたものの、実際使ってみると、ワイヤーってそんなヤワじゃない。
一方で、うっかりバック歩行した際に、運悪く堅雪などにテールがひっかかったりしてデッキに強い圧力がかかると、留め具箇所が破損する場合がある。スノーシューでバック歩行は、基本しないものなのなので、それさえ気をつければ問題ない。
なお、BOAシステムだと収納時に嵩張るのが気になる人には、バインディングの甲部分をストラップ1本で締める、ヘリウムBCがおすすめ。
こちら同じヘリウムシリーズのBOAシステムよりも、お値段も安くなる。
軽さと持ち運びとコスパにこだわりたいなら、この商品が手頃。
他のメーカーもありますが・・・
ここでは私が実際に履いたことのあるメーカーから紹介してみた。
他のメーカーでも素晴らしい商品があるので、ぜひ最適なギアを、自分の目的と、何を重視するかで選んでみて!
まとめ
雪を使ってフリールートをぞんぶんに楽しむことができるのも、スノーシューがあればこそ。とくに雪国では、一年の半分近くは雪山という環境。雪山を楽しまないなんてもったいないですね!
ばりこのガイドツアーでは、雪山初心者向けのツアーも多数ご用意しております。
もちろんスノーシュー無料レンタルオーケー(^^)
実際に体験してみると、じぶんに合ったスノーシューの選択がしやすくなりますよ。
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