わたしの著書
「ばりこの秋田の山無茶修行」の、
男前三山「神室山編」で書いたが
この神室山を最もかっこよく見せる尾根が
東稜だと思っている。
何が何でもこの東稜から神室山に
登らないことには私の中では
神室に登った気がしなかった。
登山道はないので狙いは積雪期。
地形図と気象条件を見れば
おいそれと手出し足出しできそうにない。
1日でピストンするには行程が長い。
雪が締まったシーズンは
もたもたして日が高くなれば
ナイフリッジで
雪が緩んで崩れるリスクがある。
2日かけて早朝の、雪が締まったところを
核心部往復するにも
なかなか2日連続条件のいい天気もなく。
なにより、積雪期にこんなシビアな
地形を通過した経験が全くないから
技術面でもかなり厳しい。
さて困った。
困りながら4年ぐらい過ぎた。
うかうかしていると今度は
年齢的な体力低下がさらに登頂を
遠ざけてしまいそう。
ということで、矢留山岳会の
クレイジーな山男経由で
県内屈指のカムラーの方に仲間に
入れてもらうことに。
じつはこのお二方、
4年前に、やはり東稜を狙っての偵察で
1035稜線まで登った時に
偶然にもお会いしている。
まさか一緒に東稜に登るなんて!
ということで念願の神室山東稜、
ついに叶いました!うれしい。
ルートはバッテリー切れですが
こちらYAMAPでどうぞ。しかも
カメラの時間が30分早いです。
コースタイムは
05:00 鬼首道路取り付き
06:15 1035ピーク
06:53 軍沢岳との分岐尾根
07:40 三角点1115
09:03 1160
10:03 神室山山頂!
15:00 下山完了
4時、道の駅おがち集合とのことで
実は一週間前から朝3時起き生活を
して備えてきた。
予定通り5時スタートの難関をクリアした。
天気予報では9時から晴れだが
湯沢は小雪がちらつき、路面には積雪。
しかも冷える。
ヘッデン点けてスノーシューで出発。
本日は、毎年ここを登っている、
Sさん、Oさん、Mさん、
そしてこのルートは初のFさんと
わたしの5人パーティ。
鬼首道路から1035までの急登を
一気に600メートル。
ここで皆さんについていけなければ
離脱するつもり。
というのもこのルート、
行程の長さもさることながら
最後の登りがシビア。
もたもたしていると雪が緩んで
登頂を難しくする。
なので、私の脚が全体の脚を
引っ張ることは避けなくてはならず。
この急登がいい試金石だなと
考えて取り付いた。
先週の湯沢山岳会のトレースが
締まった雪面にかすかに残る急登を
1035の雪庇まで登り切る。
最初の30分がきつく心が折れそうだったが
まあそれはいつの山行もいっしょ。
雪はなかなか止まず、
しかし風はない。
先週のパーティーが崩してくれたのか
雪庇越えのステップがあってラッキー。
ここで男前神室と対面だが、
あいにくガスのなか。
晴れていれば
朝焼け神室山が広がっていただろう。
とはいえ、
風はなく雪は締まっているしで
気象条件はすこぶる良い。
さてここからしばらく稜線歩き。
軍沢岳との分岐。
まだ山頂のガスは晴れないが
ときおり空が明るくなる。
いつのまにか雪は止んでいる。
ラッセルもなくここまで2時間。
いいペース。
軍沢岳分岐を過ぎて
4つほどアップダウンを越えていく。
このルート、
距離もさることながらこの
アップダウンの多さも地味に
メンタルにくる。
ときおり日が射すようになった。
この先は私は未踏ルート。
スノーシューからアイゼンに履き替えて
いざ神室山東稜へ。
山頂付近を覆っているガスは
ときおりふっと途切れ
きりりとした真っ白な稜線が
くっきりと姿を見せる。
雰囲気だけはエベレストだなあと
誰かが言い、
俺らにとってのエベレストだと
それを誰かが肯定する。
わたしにとって今日のトライは
かなりナーバスなものだった。
体力的にも精神的にも
ついていけるのかと。
同じ不安をわたしがガイドするお客さんも
漏らすのを聞いたことを思い出した。
わたしにとっては難易度の低い山も
人によっては大きな挑戦なのだなあと
思うと同時に、
挑戦というのは、主観的なものでいいのだと
すっきりと納得したのだった。
ガイドのお客さんたちの
それぞれの不安へ挑戦が
今回、励みのひとつにもなった。
そんな気持の揺れを経ての
未踏の稜線へのトライだ。
スノーシューはヒールリフトが
あって登りやすかったが
アイゼンに履き替えると
それがない。
急な登りはふくらはぎに
結構、くる。
しかし12本爪アイゼンの
頼もしさ。締まった雪に
確実に食い込んでくれ、
一歩一歩の安心感が違う。
最初の難関。
雪もたっぷり。締まっていて
比較的今年はここは
条件が良いようだ。
みてこの雪庇。
雪庇好きのOさんの笑顔。
ここしばらくの気温で
思いの外、稜線の雪は
緩んだ様子。
痩せ尾根にはどこも雪庇が張り出し
どこが本体の上なのか
わかりにくい。しかも、
さらっと積もった新雪の下に
クラックが隠れている。
痩せ尾根の雪のつき方というのを
はじめて実感したかも。
両脇が急峻なので
稜線の積雪は少しでも緩めば
すぐさまクラックができるのだ。
このクラックが、東稜もそうだが
パノラマ尾根にも顕著だとのこと。
夏道もある1160への登り。
両脇は切れているので
ここはピッケルを刺し、
アイゼンの前刃を蹴り込みながら。
登山前に
高いところは平気かと聞かれたが
なるほど、これね。
クライミング、少しはやってて
よかった。
夏道の9合目の標柱。
風が強いのだろう、ほとんど雪がない。
天気は曇りではあるが
空は明るい。
周囲の空を見渡せば
この周辺だけぽっかりと
雲が薄いようだった。
避難小屋が見えてきた!
最後の詰め上がりの様子。
高度感!
登頂!感無量。
ひとりひとりと握手を交わす。
何度も登ってきた神室だが
ようやく私にとっての
神室山に初登頂した気分だ。
真・神室!
風もないが
展望もあまりない。
時間とともに晴れる予報で
ときおり、連峰にスポイットライトが
差し込む。
雪が緩まないうちにと
下山にとりかかる。
登りよりも下りが危険。
痩せ尾根の脇は
これだもの。
高速道路でブレーキなしで
事故を起こすような状態になりそう。
下りはひとりずつ。
三点支持しながら。
これは慣れていないと足がすくむかも。
ちょっとの間でも
雪は緩み始めている。
一回、パンっと雪に亀裂が入る音を聞く。
往路で見たクラックは
やや広がっていた。
思えばこの天気、とてもラッキー。
もし朝からビカビカに晴れていたら
雪がゆるんでかなり際どく
なっていたかもしれない。
魔法でできた道が溶ける前に
異世界を往復してきた気分。
ふり返ればガスはどんどん上がって
小又山と天狗森がくっきりと。
危険地帯から戻ってきた。
帰りの延々続くアップダウンには
もう笑うしかない。
スノーシューのデポ地で
ランチをとるころには
だいぶ晴れてきて
日が差すと暑いくらい。
この日差しにあの稜線の雪が
温められないうちに
下山してきて正解だった。
展望テラス、
通称ひみつのテラスから
最高に男前の神室山を。
あの稜線を登ったのだ。
神室連峰の最高峰、
小又山も青空にきりりと。
三角点の1115からのコルは
広くて美しい。
木々に張り付いたシュカブラが
ハラハラと散り始めている。
やっぱり雪山は青空に映える。
軍沢岳と分岐ピークの稜線が
見えてきた。
しみじみ、遠い・・・。
登り返しのじわじわとした斜度が
どんどん脚を重くした。
Oさんから
ところで大鏑山はどれと聞かれ
懐かしい凡庸な稜線を示した。
ソロテント泊で往復した
思い出の山。
かなたに小鏑山、そして大鏑山。
今日登ったのが鏑山。
鏑の3つのピークへのこだわりで
登ったのが、
あの登頂意欲をまったく
掻き立てられないほど地味な
大鏑山に登った動機である。
雪質と天候に恵まれ
想定よりもだいぶ早く往復でき
下山は歩調ものんびりと
写真を撮りながら。
この神室山から軍沢岳に続く稜線に
秋田、山形、宮城の3つの
県境がある。
地理的には太平洋側と、日本海側の
真ん中に位置する。そのせいか
宮城側は太平洋側の冬らしく
すっきりと晴天で
反対の秋田側は、やはり日本海側の
冬らしくどんよりとした灰色の
雲が見えていた。
雪庇萌え。
分岐ピークから
今一度ふりかえる。
ここを登ればあとは
1035へ下るだけ。
1035から、朝は見えなかった展望。
ここまででも満足しそう。
さて、1035からの下りはとにかく急。
いつもは雪が緩んでいるが
今日は、固いまま。
アイゼンなしにはかなり危ない。
脚が痛くなるほど
延々と急斜面を慎重に下る。
道路からエンジン音も聞こえてくる。
人間界に戻ってきた感じ。
Oさんはこんな斜度も
走り下りていって
早い。
下山。
まだ暗い雪のなかの
スタートが遠い昔のようだ。
仲間に入れてくれたみなさんに
今一度感謝!
仕事で、
いたずらにクォリティにこだわりすぎると
指摘され、それは
周囲との調和を損ねるのだそうだ。
そうだろうか。
限界を超えたところにしか
人は心を動かさない。
地平の向こうへ行きたがるのは
ある種の人のさがかもしれない。
その先に幸せがあるかどうか
そんな尺度などどうでもいいのだ。
そんなことを感じたりもした
きょうの久々の自分超え山行でもある。
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