残雪期に目指す山:羽後朝日岳

残雪期に目指す山:羽後朝日岳

羽後朝日岳は真昼山地の北に位置し、国道46号線を田沢湖付近に差し掛かると東にその姿を見ることができる。標高1376メートル。とりたてて高い山ではないが、その頂は遠い。地形図上に確認できる登山道は廃道となって久しく、無雪期に登るならば秋田県からは部名垂沢を経て稜線に出て、そこから灌木帯をわずかな踏み跡を拾いながら辛抱強くかきわけてようやく到達できる。
 灌木の藪漕ぎは年々手強くなる一方で、今では残雪期に雪を使って岩手県側から目指すルートが最もポピュラーだろう。ここでは、その残雪期ルートを案内する。

アプローチ:貝沢牧場から登山道入口まで

岩手県西和賀の貝沢地区が登山口となります。県道1号線を西和賀から山伏トンネル方面へ向かうと、その手前に岩手交通の貝沢バス停がある。このバス停のそばに「高下岳登山口」の看板がありますので、そこから貝沢牧場方面へ集落を抜けて入っていく。

残雪期には集落を抜けて杉林に入る手前に、5〜6台分の駐車スペースがある。この先にも林道脇にスペースはあるのだが、雪の残るシーズンはいい具合にスペースがない場合も。したがって、駐車スペースには早めに到着するようにしたい。ここからだいたい30分ほどの林道歩き。
なお、雪がなければ、登山口のすぐ手前の渡渉前にもスペースがある。登山口付近まで入ることもできそうだが、渡渉点が増水した場合は車が通れなくなることもあるため、注意しよう。

登山口からP1019まで

オレンジ色のラインが林道歩き、紫が登山口以降

登山口には大きな看板があり、わかりやすい。地形図ではその先から尾根に乗るルートとなっているが、実際は上の地図上の紫色のラインが使われている。登山口からは左手にトチノキなどの雑木林、右には遠く白い頂が見えている。方角的にモッコ岳。モッコ岳は沢尻岳から向かうことができる。羽後朝日の絶好の展望地。

登山道が森のなかに入ると間も無く傾斜は増し、痩せ尾根となる。クロベの巨木を縫うように進み、雪溶けが早ければ足元にはイワウチワの群落に出会えることもある。急登を150メートルほど標高を稼げば、朽ちかけた標柱が出てくるが、文字の部分が欠けていて判読できない。

判読できない部分には「新群界分岐」と記されてある。地形図でP770の場所で、群界線が確認できる。地形図をみればここで麓からの尾根の数本が収束し、沢尻岳への主稜線をめざしてさらに200メートルほど、急登を標高を上げていく。

残雪期にはこのP770周辺で下山時に、下りる尾根を誤りやすいので何かマーキングをしておくと安心だ。

急登がやや緩み、ブナ林が広がるあたりで「前山分岐」となる。ブナの幹にそのプレートが括り付けられている。貝沢牧場付近まで伸びる尾根との合流点だ。ここまでくれば、ブナ林の合間に覗くモッコ岳もかなり近づいた印象だ。
前山分岐を過ぎるとルートは主稜線に乗って北西を向く。下り口を見失わないようにマーキングを。まもなく視界が広がりP1019だ。

沢尻岳へ向かう

1091から沢尻岳へのルート

地形図に沢尻岳の名前はないが、1260と書かれたピークがそれである。西へ向かえば大荒沢岳へ至り、そこから羽後朝日へと尾根が続く。北東に向かえば、取り付きからよく見えていたモッコ岳に至る。

地形図からもわかるように、この先のルートは尾根一本で分かりやすい。日当たりのよい場所は残雪期では雪解けが早い。厳しい気候に生きる奇形ブナの枝を時折くぐりながら進む。

ブナ林の反対側、東面は急峻な地形で雪庇が発達しやすい。3月、4月には雪庇は崩壊しており、荒々しい断面を見ることができる。クラックが入った雪面もあるので、むやみに踏み込まないように注意する。

やがて沢尻岳直下となると、尾根は広くなり矮小化したブナの樹間が濃くなっていくなかを抜けていく。最大傾斜をひろっていけば山頂に着くが、コンパスを合わせていけば効率的だ。

登山口の看板から約2時間ほど、集落を過ぎた駐車場からは2時間30分ほどで沢尻岳の山頂に至る。山頂は展望が良く、和賀岳、高下岳、秋田駒ケ岳も見渡すことができる。山頂は広くなだらかなので、沢尻岳まで登ってのんびりと展望を楽しむだけの山行も捨てがたい。

沢尻岳から大荒沢岳へ

沢尻岳を80mほど下り、大荒沢岳手前の小ピークへまた80m登る。さらにそこから70mほど標高を上げれば大荒沢岳だ。地形図に名前はないが1312.8mのピークがそれだ。稜線からは秋田駒ケ岳、岩手山、森吉山が展望でき疲れも吹き飛ぶ。

沢尻岳から羽後朝日までだいたい時間にして1時間30分前後。往復で休憩を含めると3時間は見ておきたい。残雪期とはいえまだ日は短いので、時間に無理がないか確認を。沢尻岳、大荒沢岳と展望に恵まれているのでこれらのいずれかをゴールとしても十分に満足できると思う。

大荒沢岳ののっぺりとした山腹をキックステップで登っていけば視界が360度開けて山頂となる。視界がよければ鳥海山が和賀岳の奥に覗く。
大荒沢岳の標柱は、この時期はだいたい雪の下だ。

大荒沢岳から羽後朝日岳へ

羽後朝日岳へ最後の行程となる。毎年、大荒沢岳からの下り斜面の雪の状態次第でこの先の行程の苦楽が決まると言える。
雪がしっかりと付いていれば楽なのだが、雪溶けが進んでいると灌木が露出し、踏み抜きと藪漕ぎの苦行となる。雪の状態と時間的余裕の二つを十分に吟味してこの先へ進むかどうか判断したいポイントだ。

雪の状態が良く、藪の露出や踏み抜きがなければ大荒沢から羽後朝日岳は30分〜40分程度の行程だ。往復で約1時間と10分〜20分。

この稜線からは和賀岳の展望が素晴らしい。何度も足が止まってしまうので、時間に余裕を持って歩いてほしい。

傾斜がゆるみ、なだらかになるとまもなく羽後朝日岳山頂だ。和賀山塊の北の貴婦人とも呼びたくなる、優しい姿の山である。もちろん展望は360度。北には田沢湖の湖面も展望できる。
山頂は生保内川の源流ともなっており、羽後朝日岳から志度内畚の深く急峻な谷を削る沢の眺めも圧巻である。

コースタイム(休憩込み)

07:00 貝沢集落そばの駐車スペース出発
07:25 登山口の標柱着
08:29 P770
09:40 P1091
10:30 沢尻岳
11:14 大荒沢岳
11:50 羽後朝日岳
12:20 下山開始
15:30 登山口
16:00 駐車スペース

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