夏山でなぜ足攣りが起こるのか
登山中の足攣りの主な原因は2つ。
ひとつが筋肉疲労によるもの
もうひとつが脱水症状によるもの
足攣りの原因がこのどちらかによって、対処や予防方法が異なってくる。
筋肉疲労による足攣りに対して、せっせと経口補水液を飲ませても効果はさほどないし、脱水症状が原因の足攣りに漢方薬をせっせと飲ませても効果は一時的で、それどころか症状が熱中症へと進行してしまうことも。
こうなるととても危険。
ここでは夏に起こる脱水による足攣りの対策として、どんな飲料を選ぶべきかご紹介します!
登山の足攣りには芍薬甘草湯でしょ?
鳥海山での足攣りあるある現場
数年前の鳥海山でのこと。
矢島コースを登り七高山に到達した。
すると中年の男性が何やら叫んでいるのが聞こえてきた。
「どなたか〜68番お持ちの方はいませんか〜!」
見ればそう呼びかける男性の仲間が足を攣ったらしくうずくまっている。
「あるある」
とっさにあちこちから声が上がり、「68番」の個包装が差し出される光景を見た。
これは登山でよくある光景である。
足攣りに備えて68番、つまり漢方薬の芍薬甘草湯を装備する登山者は多い。
そしてこれに救われた登山者もまた多い。
なかには朝から飲んできたという登山者もいる。
だがちょっと待って。
足攣りの解決に即、芍薬甘草湯っていいの?
漢方薬だから問題ない?
ほんとう?
え?足攣りに漢方薬ってダメなの?
足攣りというのは、筋肉が痙攣してしまうこと。
登山中にこの症状が出ると、ちょっと動くことすらままならないほどの苦痛に見舞われる。
このような足攣りに、驚くほどの回復効果を見せるのが漢方の芍薬甘草湯。
服用して5分も経たずに足攣りが治って、何事もなかったかのように登山を再開することができる。
登山のときの頼もしい味方だ。
ところが登山中の足攣りには、主に2つの原因があることをご存知だろうか。
ひとつが筋肉疲労による筋肉の痙攣。
筋肉のオーバーワークによるものなので、本来ならばもっと鍛えないといけないが、登山中の足攣りまっただ中のつらい現場で、できることといえば漢方薬を飲んで筋肉のこわばりを解くことぐらい。
芍薬甘草湯は筋肉のこわばりをゆるめることで、足攣りを解消する。
このため、人によっては下山時など、筋肉の踏ん張りが効かなくなって転倒しやすくなる恐れも。
筋肉に自信がなければできれば事前にアミノ酸を補給し、登山中もアミノ酸を適宜補給することで予防になる。
アミノバイタルなどアミノ酸を登山前、登山中に飲むことで筋肉疲労を和らげる。
脱水症状になっても足を攣る
足攣りのもうひとつの原因が、脱水症状による筋肉痙攣。
この場合、原因は脱水だ。
だから漢方薬を飲んでも効果は一時的でまたすぐに痙攣が起こってしまう。
根本的な原因である脱水症状を改善しないまま放置し続ければ、最悪、深刻な熱中症に進行するかもしれず
足攣りだけでは済まなくなる。
足攣りをおこしたらすぐに漢方を飲むのではなく、その要因が脱水ではないのかと見極めることが大事なのだ。
足攣りは脱水症のサインであり、熱中症に進行しないよう、すぐに適切な処置をしなければならないのだと
この脱水サインを見逃さないようにしよう。
登山に持っていくべき飲料の量の調べ方
それでは、いったいどのくらいの飲料を持っていけばいいの?
たくさんあれば安心だけれど、そのぶん荷物が増えてしまいよけい汗をかくことになりそう。
そんなときは便利な計算式がある。
この計算によって、行動中に失われる水分量が求められる。
なので、その量を基準に持っていけばよいのだ。
この量の80%は最低限持っていこう。
なお、この式の「5ml」は状況に応じて変えることも大事。
5mlはさほど暑くもない気温条件での係数。
もしもっと気温が高く暑くなりそうなときや、荷物が多くハードな行程が予想されるならば5ではなく6や7というように変更する。
足攣り予防のための登山でのおすすめ飲料
わたしのガイドツアーではご参加の方々に用意する飲み物には、スポーツドリンクをお勧めしている。
理由は2つ。
①汗とともに失われる電解質を補給できる。
②体内への水分の吸収がスムーズな成分配合。
登山は発汗量が多い運動のひとつ。
体内の水分が2%失われると運動能力が低下しはじめる。
そして発汗の際には電解質も一緒に出てしまう。
電解質というのは、ナトリウムなどのミネラルのこと。
電解質が体内から減少すると、筋肉の動きや神経細胞に影響が出てしまう。
つまり登山中にたくさん汗をかいたにも関わらず、失った水分と電解質を正しく補わないと、足を攣る、転びやすくなるなど
筋肉に支障が出たり、ぼーっとなって注意力が損なわれたりするのだ。
そこで、スポドリ。
お茶や水では水分は補給できても、電解質つまり塩分が不足したまま。
電解質の不足は足攣りなどのほか、体内に水分を吸収しにくくしてしまう。
この「吸収しにくい」ということは、いくら飲んでも飲んでも汗や尿になってどんどん排出されてしまうということ。
これでは重い水をいくら背負って行っても、体力が奪われるだけである。
登山中の水分補給で大事なのは、体に吸収しやすい飲料を選ぶことなのだ。
スポドリは2種類あるよ。どっちを選ぶべき?
スポドリは成分量と浸透圧の違いで2種類ある。
・人体の体液と浸透圧が同じアイソトニック
・人体の体液より浸透圧が低いハイポトニック
わたし個人の使い分けとしては、登山の当日の朝、登山前にアイソトニック系のスポドリで体内の水分量をリセット。
これは寝ているうちの発汗で失われる水分を補給するため。
そして特に発汗の多いような夏の登山中はハイポトニック系スポドリ。
理由と詳細は以下の通り。
アイソトニック系飲料とは
すぐにイメージするスポドリがこれ。
ポカリスエット、アクエリアスなど。
体液と同じ浸透圧になるよう、塩分、糖分、水分のバランスがよい。
1時間程度のスポーツや日常生活なら、このタイプが体内への水分吸収が優れる。
甘いのが苦手と、糖分の高さを指摘する人もいるが、日本体育協会によると4〜8%の糖分が含まれることで水分の吸収がスムーズになるらしい。
アイソトニック系飲料を飲むシーン
ただしやはりスポドリの糖分量では、常時飲み続けるには糖分摂りすぎや虫歯のリスクも出てくる。
スポドリを飲む場合は、運動や入浴などで特に汗をかいた際と登山前やスポーツ前に、確実な水分補給を目的としたときに限定し、通常の生活中では甘みのない飲料がいいだろう。
なお、確実な水分補給を目的とした時は薄めず飲むこと。
薄めてしまっては体内への吸収のための配合が崩れてしまい、ただの清涼飲料水にしかならない。
ハイポトニック系飲料とは
アイソトニック系よりも糖分量を減らして、体液よりも浸透圧を低くしたもの。
ハイポトニックという表記はされていないので選ぶ時の簡単な見分け方は
カロリーオフ、
糖分ひかえめ、
こうした糖分が少ない表記のスポドリなら、ハイポトニック系だ。
ちなみに経口補水液もハイポトニックに分類される。
たとえばポカリスエットの場合、栄養成分表示で見分けるとすれば
ポカリスエットの炭水化物:6.2g
イオンウォーターの炭水化物:2.7g
※100ml当たり
炭水化物は糖質と繊維から成るので、糖質の目安としてチェックする。
ハイポトニックはアイソトニックよりも糖分が約半分だ。
ちなみに食塩相当量
ポカリスエットの食塩相当量:0.12g
イオンウォーターの食塩相当量:0.1g
※100ml当たり
となっており、食塩以外の電解質成分もアイソトニック、ハイポトニックどちらもほぼ同等となっている。
ハイポトニックを飲むシーン
登山中、発汗で電解質も失われていると体液が薄くなっている。
したがってこのように体液が薄くなっているときは、通常の体液よりも濃度が低い設計のハイポトニック飲料のほうが、体内への水分の吸収がスムーズになる。
しかも糖分が低いのでさらりと飲みやすい。
経口補水液を登山中に常時飲む人も見かけるが、こちらは塩分濃度がスポドリの倍以上なので塩分の摂りすぎに注意が必要だ。
暑い日の登山では、メインの飲料にはハイポトニック飲料、ときどき経口補水液という組み合わせが健康上はいいだろう。
なお経口補水液は凍らせたままでは、濃度にムラがでるため、効果が期待できない。
凍らせずに持っていくこと。
夏山にはポータブル浄水器を持とう
多めに持ってきたはずの飲料も、夏場はあっというまに飲み尽くしてしまうことも。
残りを気にして、飲料摂取をガマンしていると熱中症にもなりかねないほか、筋肉の疲労も大きくなってしまう。
コース中に、売店や湧水がないならばぜひ持っておきたいのが、携帯用の浄水器。
これがあれば、沼や沢、水たまりからも飲料水を得ることができる。
わたしが持っているのはこちら。
サイズは手のひらほど。
価格も5000円ほどなのでお求めやすい。
よどんだ沼地の水でも、水たまりでも飲める水にしてくれる、心強い装備だ。
ちなみに以前、温泉が流れる沢を遡行したとき、硫黄臭い温泉水で試してみた。
飲めるは飲めたが、さすがに硫黄臭だけは除去されなかった。
たしかにこれは極端な例ではある。
まとめ
夏山の足攣り対策には
筋肉疲労によるものなら
1、ふだんからスクワットなどで筋トレを。
2、アミノ酸を活用して筋肉の疲労を予防する。
3、サポーターなどを活用。
4、それでもダメなら漢方薬
ただし漢方薬の芍薬甘草湯は筋肉を緩めるので、飲みすぎるとふんばりが効かなくなったり、また心疾患のある方は心臓など臓器にも注意が必要。
脱水症による足攣り予防なら
1、登山前アイソトニック飲料で水分と電解質補給
2、登山中はハイポトニック飲料
3、発汗量によって適宜経口補水液を
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