雨の登山で濡らさないための準備編
登山をはじめて2、3年といえば、最も山登りに貪欲になる時期かなと思う。
私にもそんな時代が数十年前にあり、雨であろうとも山に入るのが楽しくてしょうがなかった。
今回は、そんな雨でも山を諦めきれない方々にむけて、私なりに雨の登山の失敗から学んだプチノウハウなどまとめてみた。
少しでも快適で安全な登山のお役に立てれば。
雨が止んでいても油断できない山の濡れ
ザーザーと雨が降っていれば登山者たちは、当然雨に対しての対策に抜かりはないもの。
ところがひとたび雨が上がってしまえばどうだろう。
雨への用心などさっさと取っ払って、いざ!とばかりに山へと入っていく人も、少なくない。
ところが雨上がりのそこに盲点がある。
たとえば狭い登山道や、下草の刈り払いが不十分なコース。
こうしたコースでは雨に濡れた下草が、その雨水の重みで登山道にかぶさっている。
そんなところへ、雨の対策もなしに分け入って行ったならば、あっという間にズボンがビシャビシャに濡れてしまう。
なので、雨が止んだからと早急にレインウエアを仕舞い込むのは、コースによってはお勧めできない場合がある。
夏場なら濡れたズボンはすぐ乾くので、大きな問題はないかもしれない。
がしかし、問題は登山靴。
それも靴の中が濡れてしまうと、かなり厄介なことになる。
雨の登山のプチノウハウとしてまずは、雨が止んでいるのに関わらず、なぜ登山靴の中が濡れてしまうのか、実例とともに説明しよう。
雨でもないのに登山靴ずぶ濡れ登山の実例
梅雨時に、乳頭山へ秋田駒ケ岳から縦走したことがある。
登山口に着くと朝までの雨が止んでいたのだが、このコース、登山道両脇から下草が被る。
さらに湯森山から先は刈り払いがされていないので、コースのほとんどがヤブ道だ。
こんなコースではたとえ雨が降っていなくても、下草が濡れているので雨具を着用すべきところだ。
たしかにガイド業務中ならば、面倒だのなんだの言わず、「山では装備を面倒くさがらないこと」などと尤もらしく講釈しながら雨具を装着するのだが、きょうは気心の知れた山仲間との山行。
そんな油断も手伝って、多少濡れてもいいかと甘い考えが発動しそのままスタートしたのだった。
ところが5分も歩かないうちに、登山道の両脇からの濡れた下草によって、みるみるズボンが濡れてしまった。
やがて濡れたズボンから雨水は靴下に浸透していき、最終的には登山靴の中は沢靴のようにずぶ濡れに。
登山靴は中が濡れたら最後。
ズボンと違って、おいそれと乾いてはくれない。
おかげで1日、ズブズブと不快な足で歩く羽目になった。
このようにズボンが濡れると、それを伝って靴下まで濡れてしまうことがある。
靴下が濡れると、いかに入念に撥水スプレーをかけてきた登山靴であってもお手上げだ。
靴の中は簡単に水浸しになってしまう。
また、足の皮膚がふやけると、皮膚が弱くなり擦れなど怪我をしやすくもなる。
面倒でも、どんなに急いでいても、下草が濡れている時は雨具のズボンを履く価値は大きい。
裏ワザ:だがしかしやっぱり雨具ズボンが嫌なとき
暑くなりそうなので、雨でもないのに雨具のズボンなど履きたくない!
そりゃそうだ。
そんなときは、ゲイターをズボンの下につけるのも手。
靴下をカバーするように装着。
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パンツの裾を被せる。
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これならたとえズボンが濡れても、ゲイターで靴下がカバーされるので靴の中への雨水の侵入がない。
ただし、汗で湿ってしまうので、ゲイターの素材にはゴアテックスを。
登山靴の乾かし方とやってはいけないこと
もしも私のように、登山靴の中を濡らしてしまったときのために、乾かす手順をまとめてみた。
①靴紐をはずし、中敷きもはずす。
②まるめた新聞紙をつっこんでこまめにかえて、水分を除く。
③つっこんだ新聞紙が濡れなくなったら、風通しのいい日陰に平置きして2〜3日ほどかけて乾くのを待つ。
注意!くれぐれもドライヤーなどの熱で急いで乾かそうとしないこと。
特に皮製品だと靴が痛んでしまう。
明日も山に行きたいのに、なかなか乾いてくれない登山靴の中。。。
そうなのだ。
だから登山靴の中は、絶対に濡らしてはいけないのだ。
雨が予想されるときの濡れない準備
ゴアテックスでも撥水スプレーは必須
レインウエアといえばその素材の筆頭はGORE-TEX。
また昨今ではゴアテックスに準じた、防水透湿素材も多く開発されている。
これらの素材、長時間にわたって強い雨にあたっても雨水が入り込まないという、優れた素材。
だったら、撥水スプレーなんて必要ないんじゃないの?
そう考えたくなるのだが、これが実は落とし穴。
雨の日に体を濡らす原因は、外からの雨だけではなく、自分の体からの汗や水蒸気もまた、体を濡らす大きな要因となる。
ゴアテックスなどの防水透湿素材が優れている理由は、外からの水を防ぎながら内側からの水蒸気は逃がしてくれるという、二つの「濡れ」への対処ができる点。
しかしながら、この優れた機能を発揮するには条件がひとつ。
レインウエアの表面に、水滴が張り付いていないこと。
雨粒がレインウエアにべったりと張り付いてしまうと、内側からのムレを逃すための小さな穴が塞がれてしまうのだ。
こうなってしまうと、ムレはレインウエアの内側に籠り、水滴となって衣類を濡らしてしまうことに。
レインウエアも新しいうちは、バンバン雨粒を弾いてくれるのだが、だんだんこの撥水力が低下してしまう。
そこで、撥水スプレーが必要となってくるのだ。
もし、撥水スプレーをかけていても、撥水力が低下していたならば、そのときはアイロンをかけることができる素材であれば、熱をあてることで撥水性が蘇る。
それでも、撥水力が蘇らない場合考えられるのは次の2点。
・皮脂やよごれによって、通気孔が塞がっている。
・劣化によるもの
レインウエアは、使うたびに専用洗剤で洗うことが各メーカーから推奨されている。
長持ちさせて、いざというときに濡れから体を守るためにも、こまめな手入れを怠りなく。
レインウエアのパッキングのひと手間
雨の予報がある場合、雨具は取り出しやすいよう、ザックの上部にパッキングする人も多いだろう。
このときもうひとつ、忘れてならないのが雨具を手早く着るための準備。
それが、雨具のファスナーは全て開けておくこと。
上着はもちろん、ズボンも。
裾にもファスナーがあるタイプならそのファスナーも開けておく。
こうしておくと、次のような利点がある。
・濡れる時間を抑えることができる
・登山行程で停滞時間を短くできる
登山において、とくに気象や地形などのリスクが高いシーンにおいては、モタモタしないことは遭難防止にもつながる。
レインウエアと一緒に用意したい装備
その1:ゲイター
そういえばひと昔前までは「スパッツ」と呼ばれていた。
最近はゲイター呼びが主流らしい。
その役割としては以下の通り。
・登山靴への異物の混入を防ぐ
・濡れや汚れから足元をガード
特に雨の日は、登山靴への雨の侵入を防いでくれる頼もしい防波堤だ。
ゲイターの選び方
ゲイターを買いに行くと、地味な装備の割には長さや素材がいくつもラインナップされていて面食らう。
ましてや、初めてのゲイター購入であればなおさら、どう選んだらいいものか悩ましい。
ここではゲイターの種類と選ぶポイントを紹介する。
□積雪期用と無雪期用について
夏山で、アイゼンを使わないコースなら無雪期用で十分だ。
軽いし生地も薄いので邪魔にならない。
無雪期用と積雪期用の違いは、積雪期用はアイゼンのひっかかり防止のために、アイゼンが当たりそうな部分がやや厚手となっている。
生地が厚くなっている分、夏は暑く感じたり、また当然だがその分の若干の重みもある。
□長さの違いについて
ショート、ミドル、ロングとある。
ショートはザレ場などで、靴への小石などの侵入を防ぐのが主な目的。
もし雨具の裾を汚したくないためにゲイターを付けるのならば、ロングを。
内側に装着するならば、ミドル以下を。
内側に装着オンリーの場合、ショートでも靴下を覆う程度の長さがあればそれでも事足りる。
ゲイターの装着方法
ゲイターを用意してきたものの、付け方がわからないという登山者がときどきいる。
たしかに下界では馴染みのない装備。
ついでなのでゲイターの付け方をサクッと紹介。
①ゲイターには上下左右がある。左右についてはタグなどに記載がある商品もあるので確認を。
上か下かについては、ブランドロゴを見るのが手っ取り早い。 |
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②ゲイターの上部分のホックがあれば最初に留める。 | ![]() |
③下からファスナーを上へ向かって閉める。 | ![]() |
④ゲイターをつけた足の内側にぷらんと下がっている、ヒモを足裏にくぐらせて、足の外側にまわしてフックにひっかけて留める。
これでゲイターが上へずり上がっていかない。 |
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⑤ゲイターの前部分に右画像のようなフックがあるタイプならば、このフックを靴紐の交差部分にひっかける。
これによってゲイターがしっかりと足元をカバーして、ずれにくくなる。 ④と⑤の順番はどちらが先でも良い。 |
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目的別ゲイターの正しい装着
ズボンの上か下か論争がときどき賑わう。
どっちも正解だ。
ズボンの上でも下でも、じぶんの目的に合わせて着用すれば良い。
ズボンの下に装着する目的
レインウエアのズボンを伝って、雨水がゲイターの間から侵入すると、登山靴や、着用次第では靴の中を濡らしてしまうこともある。
この雨水の侵入を防ぐためには、ゲイターは雨具の下、つまり内側に装着する。
一方では内側に装着したほうが、見た目がスマートだからという理由でそうする人もいる。
わたしもそう。
ズボンの上に装着する目的
泥濘地を歩くと、レインウエアの裾がドロドロになってしまう。
長期縦走や、下山後の洗濯などを考えるとあまり派手に汚したくないもの。
そんなときは、ゲイターはレインウエアの上、つまり外側に装着する。
外側に装着したときの、雨具との隙間からの水の侵入問題については、その対策を次に解説する。
①ゲイターの上に雨具の裾を引っ張り上げる。
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②引っ張り上げた裾をゲイターの上に被せる。
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③ゲイターと雨具の隙間が覆われるので、雨が入り込みにくくなる。
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その2:大判のビニール袋を持つ
登山中に雨に降られた時、雨具のズボンを履くために登山靴を脱いだりはしない。
そうなると登山靴を履いたままズボンを履くことになるのだが、そのまま履こうとすると登山靴がひっかかってうまくズボンに足が通らない。
ともすると、登山靴の金具でゴアテックスを痛めてしまう恐れも。
スルッとスムーズに履くためには、大きなビニール袋を用意していく。
ゴミ袋がちょうどいい。
①大判の袋に登山靴を履いた足を入れる。
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②ズボンを履く。
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ビニール袋を登山靴に被せれば、スルッと履くことができる。
いわゆるレジ袋だと、小さくてうまく足を入れられないので難儀する。
おすすめは30リットル以上の大きな袋。
その3:レインハット
レインウエアのフードを被ると、視界が狭くなったり音が聞こえにくくなるのでなかなか不便。
こんなときは、レインハットがおすすめ。
よほどの風雨でもない限り、襟元への雨粒の侵入は帽子のハットでほぼシャットアウトされる。
軽量で折りたためるモデルも多いので、レインウエアとともに準備すると良い。
注意)髪の長い人は、髪の毛が濡れてしまうと首筋からウエアに伝って濡れてしまうこともある。
髪の毛を結んで、雨に濡れないよう纏めることを忘れずに。
その4:ザックカバー
ほとんどの登山ザックは完全防水にはなっていない。
したがって、ザックカバーつまりレインカバーは必携となる。
ザックカバーは必ず、ザックサイズに合ったものを用意しよう。
小さすぎると当然役に立たないし、大きすぎるとザックにフィットしないのでともすれば、風に煽られてしまったり、飛ばされてしまう恐れもある。
ザックカバーにカバーされない部分
ザックカバーはザック本体をまるっと覆って、ザックが濡れるのを防いでくれようとするのだが、覆いきれない部分がある。
ショルダーベルトとウエストベルト(ヒップベルト)の部分だ。
この露出部分が濡れると、ザックにもじわじわと濡れが広がってしまう。
対策としては撥水スプレーをかけておき、濡れるまでの時間稼ぎとする。
ザックカバーを忘れてしまったときのために

レインウエアは持っていても、このザックカバーをうっかり忘れる人もたまにいる。
そうなると、荷物が濡れてしまい使い物にならないわ、湿って重くなってしまうわで散々である。
ザックカバーを忘れないのも大事だが、さきほど紹介したレインウエアを履く時の大きめのゴミ袋。
これを複数枚いつもザックにいれておけば、何かと重宝する。
ザックカバーを忘れてしまった時は、ザックにこの袋を入れてその中に荷物を入れれば、本体は濡れても中の荷物は無事である。
汎用的に使えるモノというのは山では重宝するのだ。
ザックカバー他に使い道は?
レインウエアなら、雨以外でも防寒防風のウエアとしても使えて重宝するのだが、ザックカバーって雨のときしか使えない。
汎用性がない装備のひとつである。
なにかザックカバー以外に流用できないものかと、座る時のシートにしてみたことがある。
結果として、すぐに穴が空いてしまいダメだった。
くれぐれも、敷きものにはしないように。
ゴアテックスなのに濡れてしまう理由
ゴアテックスでも濡れてしまう要因は主に次のようなことが挙げられる。
2、レインウエアを柔軟剤入り洗剤で洗っている。
3、襟元や袖をしっかり閉めていない。
4、首に巻いたタオルなどから雨水が染みている。
5、髪の毛から雨水が襟元に伝い落ちている
6、レインウエアの劣化
レインウエアの撥水性については、先に説明した通り。
レインウエアを洗う時の注意ポイントとして重要なのは、洗剤選び。
せっかく毎回使うたびにこまめに洗っていたとしても、その洗剤に柔軟剤が使われていればその柔軟成分が、生地に残ってしまい水蒸気を逃す穴を塞いでしまうのだ。
中性洗剤ならば良い、というわけではないので必ずチェックを。
専用洗剤が一番安心だが、一般の中性洗剤を使う場合は「ノンシリコン」や「柔軟剤は入っていない」
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まとめ
雨の日は登山はしないという人も少なくないが、喧騒が苦手で人気コースを敬遠している登山者にとってはまさに恵みの雨、かも。
かくゆう私も山は静かに歩きたいので、花のシーズンには行きたい山に行けず不便な思いをしたものだ。
しかし、雨ならば登山者も少なく、いたとしても喧騒は雨音で中和され、風情のある山歩きを楽しむことができる。
レインウエアを打つ雨音もまた心地よい。
そして雨のシーズンは花のシーズンでもある。
やさしいハイキングコース、花々とともに雨に打たれる山歩きを楽しんでみては。
もちろん、こうした雨の山歩きを楽しむならば、風が弱い雨の日に限るし、地形リスクのないコースに限ることをお忘れなく。
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