
山形と秋田の県境にそびえる「出羽富士」こと鳥海山。
その美しさは格別ですが、標高差があり「体力が心配……」と二の足を踏んでいる方も多いのでは。
今回は「暑さを避け、お花を愛で、無理なく山頂を目指す」という、どうせ登るなら鳥海山の魅力をあますことなく楽しみつくす、贅沢な1泊2日の登山プランを地元登山ガイドがご紹介します。
1. はじめに:昨今の夏の鳥海山事情

夏の鳥海山。
東北とはいえここ数年、麓では35℃を超える猛暑となります。
本来ならば鳥海山は、地元の登山者の避暑登山のエリアでもありましたが、最近は暑さでバテる人も増えております。
健脚者なら日帰りでも可能な山ではあります。
しかし、せっかくの鳥海山。
景色と花を楽しみたい人たちは、山頂小屋に一泊のプランが人気のようです。
ところが。
コロナ以降、山頂小屋では寝具の提供を令和8年度も行わないこととなりました。
このため、登山者はシュラフとマットを背負って登らなければなりません。
こうなると、夏の暑さと日陰のない登山道、そして長い行程に大荷物が加わってダメージも大きく。
そこで今回は、登山ガイドがおすすめするなるべく体力温存しながらの夏の鳥海山プラン。
それはあえて七合目御浜小屋に一泊する作戦。
これなら、余裕をもって夏の鳥海山のいいところを余すことなく味わえます!
その理由を詳しく解説しますね!
なお当ガイドツアーでは令和8年7月31日〜1日、この行程でツアーを行います。
あわせてご検討くださいませ(^^)
あえて七合目「御浜小屋」に泊まるべき3つの理由
1)荷物からの解放

山頂小屋に一泊の行程ですと、シュラフなどの一泊装備をずーっと担いでの行動に。
暑いし重いしで、景色や花を楽しむ余裕もなかった・・・。
そんな声もよく耳にします。
そこで七合目に一泊なんです。
シュラフなど一泊装備は、もし小屋の方のご了解を得られたならば小屋に預かってもらいましょう。
利用客が多かったり忙しかったりで、荷物の預かりを断られたら岩陰などにデポするのも手。
デポするときは次の点はしっかり配慮を。
・登山道の邪魔にならない
・高山植物などの上に置かない
・裸地や岩などの安定した場所を選ぶ
・風などで飛ばされない工夫
・万が一お持ち帰りされても文句は言えないと割り切る。
2)花と展望の鳥海湖を散策できる余裕

七合目の御浜(おはま)小屋からは、眼下にまん丸な鳥海湖、そして背後には日本海を望めます。
小屋で宿泊手続きを済ませたら、鳥海山随一の花のプロムナードでもある鳥海湖を一周しましょう。
御浜からの周回コースはこちらの記事に詳しく説明しております。
3)涼しいうちに並ばずに山頂へ

翌日はいよいよ最高峰の新山へ出発です。
涼しい早朝から行動しましょう。
もし影鳥海が見たい場合は、日の出の1〜2時間前に出発を。
御浜からも見ることはできますが、少しでも高いところから見たい場合は日の出前に外輪の文殊岳まで登ってしまうのがおすすめです。
早めに行動するメリットは涼しさだけではありません。
鳥海山山頂は足場の悪い岩の上で、広さは2畳ほど。
ハイシーズンには、ここで行列ができて大きなタイムロスになりがちです。
山頂は12時前後から混み始めます。
日の出とともに七合目を出発したならば、午前の早い時間に山頂を独り占めも可能かも。
アクセス:公共交通機関と前泊の活用術

関東方面からの移動は、新幹線と特急を乗り継ぐ列車の旅が快適です。
アクセス
往路
上越新幹線で新潟駅へ。
そこから特急いなほに揺られ、羽後本線「遊佐(ゆざ)駅」を目指します。
車窓に広がる水田と日本海の景色も楽しみの一つ。
二次交通
鳥海山までの定期バスなどの運行はありません。
そこで利用したいのが、登山シーズン運行される2つの二次交通。
ひとつは遊佐町の予約制の鳥海乗合タクシー。
羽越本線の酒田駅と遊佐駅などから、登山口まで乗ることができます。
シーズン中はほぼ毎日運行しているのがうれしいです。
前日の16時まで予約を忘れずに。
↓こちら。
もうひとつが
登山シーズン中に運行される予約制の乗合バス鳥海ブルーライナー。
象潟駅から登山口の鉾立まで連れて行ってくれます。
ただしハイシーズン中の土日祝日のみの運行です。
前日の17時まで予約も必要です。
詳しくはこちら↓
前泊におすすめの宿
登山口に近く、早朝からの行動にもおすすめの宿はこちら。
□大平山荘: 標高1,000m。
ポイント:標高1000mの宿。登山口まですぐなのがうれしい。
※令和8年度の宿泊営業未定
ポイント:鳥海乗合タクシーの発着があるので便利です。
□鉾立山荘
ポイント:登山口の目の前。素泊まりのみの山小屋。毛布やシャワーも有料ですがあります。
朝一番にスタートできるのがうれしい。
1泊2日のゆったりタイムスケジュール

| 前日(土曜) |
東京 06:08発 →上越新幹線 とき301号 新潟 08:23発 →特急いなほ1号 鳥海温泉 遊楽里泊(遊佐駅から徒歩15分) |
| 1日目(日曜) | 07:55 鳥海乗合タクシーで遊楽里出発 08:25 鉾立登山口到着 08:40 登山スタート 10:40 七合目着 荷物をデポして笙ヶ岳へ 11:30 笙ヶ岳でランチタイム のち、花のプロムナード鳥海湖周回コースへ 14:00 御田ケ原経由で御浜小屋へ ※翌日早立ちのためのパッキングや荷物のデポ手配などを終わらせておく 16:00 早めにビールで乾杯。 |
| 2日目(月曜) | 03:30 起床 静かに小屋の外へ出て身支度と朝食 04:30 出発 そろそろ日本海に影鳥海が。 07:30 新山直下の大物忌神社/休憩ののち山頂へ 08:30 新山山頂 09:30 鳥海山美術館や大物忌神社でお守り購入したり 10:00 下山開始 14:30 鉾立登山口 稲倉山荘でお土産やレストランでのんびりと。 16:20 乗合タクシーで遊佐駅または酒田駅へ 乗合タクシーは前日の16時ま要予約 ※一本早い乗合タクシーは12:30発です。 |
【DAY1】鉾立から象潟コースを御浜へ:花のプロムナードを歩く
鉾立登山口

前泊が遊楽里なら、鉾立の登山口までは予め予約していた7時55分発の鳥海乗合タクシーに宿前から乗って向かいます。
鉾立登山口は、早朝から登山者たちで賑わっています。
ここにはビジターセンターや、観光客向けのレストハウス、鉾立山荘などがあり、もちろんトイレも。
トイレは洋式の水洗トイレで、清潔できれいなのがうれしい。
七合目の御浜

登山口から御浜までの登山道は石畳が整備されており、迷う心配もなく安心。
出発してすぐの展望台からは、奈曽渓谷が深い谷を刻み、その彼方には目指す新山が見えます。
振り返れば日本海の海岸線が伸びやかです。
御浜小屋に到着したらさっそく花と展望を楽しみながら散策をしましょう。
余裕ありましたら、鳥海湖一周や、笙ヶ岳往復もおすすめです。
翌日の出発準備をしたら、ちょっと早めにビール片手に夕暮れの日本海を眺めて緩やかな時間を。
なお、早立ちする場合は出入り口そばに寝場所を確保するのがおすすめです。
【DAY 2】早朝の静寂を歩く:新山ピークハントと下山
夜明け前に起きたら、周りの睡眠を邪魔しないように大きめのスタッフバッグ(わたしはよくシュラフのスタッフバッグを使います)にとりあえず荷物を詰め込んで、そっと外へ。
満天を埋める星を眺めながら朝食を食べ、荷物をパッキング。
不要な荷物は、前日のうちに小屋に預けてもらうか、デポ場所として目星をつけていた場所に。
さあ、地平の縁が赤く染まりはじめました。出発しましょう!
扇子森から御田ケ原へ

出発してまもなく、岩場歩きとなります。
ここは暗いうちはちょっと迷いやすいところ。
できれば前日に下見しておくと安心です。
岩につけられたペンキの目印や、岩についた泥などの踏み跡をヘッデンの灯りで丁寧に拾いながら進みます。
八丁坂から七五三掛(しめかけ)へ
徐々に空が明るくなり、気温もきゅっと冷え込む時間。
コースは明瞭ですが、足元に注意しながら進めば外輪コースと千蛇ケ谷コースの分岐に。
もし風もなく晴れていれば、外輪コースへ。
途中、ちょっとボルダリングして外輪に上がっていきます。
朝日が昇り、徐々に周囲の景色が金色に輝き始めるころかもしれません。
振り返れば日本海に、朝日を受けた鳥海山の大きな三角形の影が映し出されることも。
これは影鳥海。晴れた日限定の絶景です。
しばし、コーヒーなど淹れながら朝の景色のシンフォニーを楽しみましょう。
新山へ!

山頂の「新山」直下は大きな岩が重なり合う岩場を登ります。
岩は安定しておりますが、東側のコースは落石しやすい箇所もあります。
ヘルメットを用意することをおすすめします。
岩にはペンキで◯印が付けられていて、これを目安に登ります。
令和7年ごろから、付けられたこのペンキのマークのおかげで、ずいぶんコースがわかりやすくなりました。
下山

帰りは、千蛇谷コースでも外輪コースでもどちらでも。
ただし外輪コースの場合、湯ノ岱コースのアザミ坂へ誤っておりていかないよう注意しましょう。
最近は迷わないよう標柱なども整備されているので、見落とさないように。
鳥海山の道迷いポイントはこちらにまとめております。
↓
夏の鳥海山で見ておきたい花々

鳥海山は「花の百名山」としても有名です。
ここならではの花をぜひ見つけてくださいね。
チョウカイフスマ

砂礫地に咲く鳥海山の固有種です。
フスマとは布団のことで、岩の上にまるで布団を被せたようにこんもりとした姿が特徴。
花は白く小さな星のような形をしております。
イワブクロ

火山系の山の、砂礫の上に咲きます。
薄紫の筒状の花。
鳥海山が南限のようですので、ここから南の山域では見ることができません。
オクキタアザミ

8月ごろに、御浜周辺から笙ヶ岳方面や扇子森付近に咲きます。
見られるエリアは鳥海山と羽後朝日岳など、ごく限られたエリアでなかなかレアな花。
アザミとありますが、キク科。
ご興味ある方はこちらをどうぞ
↓
体力に自信がない方への装備アドバイス
ストックの活用
鳥海山の象潟コースは、登山道が整備されているのはありがたいのですが、石畳の下りは疲れた膝に負担がかかります。
ダブルストックで衝撃を逃がしましょう。
日差し対策
コース全体は森林限界を越えているため、日を遮るものがありません。
帽子とサングラス、日焼け止めは必須です。
最近は軽量なアウトドア用の日傘も登山用品メーカーから発売されています。
足元が安定した広い登山道なら、使ってみるのもいいでしょう。
熱中症対策と足攣り対策と
鳥海山は水場が限られます。
御浜小屋と山頂小屋で購入できますが、多めに用意しましょう。
夏は経口補水液は心強い味方。ぜひ携行を。
なお、汗を多くかく季節はスポドリは全体に濃度が薄い、カロリーオフタイプのものがおすすめ。
夏の熱中症対策と、足攣り対策をこちらにくわしくまとめております。
特に夏場のロングコースは、正しい飲料選択と漢方薬の使い分けの知識は必須。
ぜひご一読くださいね。
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おわりに:鳥海山が教えてくれる「急がない登山」の魅力
鳥海山は、やさしげな山容とはうらはらに実際登ってみれば少々タフな山です。
しかし、豊富な積雪が育んだ自然と景観が素晴らしく、何度も訪れたくなる山でもあります。
一泊の行程にすることで、そんな鳥海山のさまざまな表情を見ることができるでしょう。
次の夏休みは、少しだけ贅沢に時間を使って、東北の最高峰を味わい尽くしてみませんか?
皆さまの挑戦を、心から応援しています。
もし不安な場合は、どうぞ当ガイドツアーでお待ちしております(^^)








