大鏑山は宮城県と山形県の県境を成す、
標高1119.2mの、とてもとても地味な山だ。
何の見所もなさそうなピークであるが、
小鏑山こと禿岳、鏑山こと神室山と
そしてこの大鏑山を、
勝手に鏑三山と命名してからというもの
私にとっては特別な一座となった。
鏑(かぶら)は鏑矢の鏑かと推測すれば、
遠い昔、中央政権と地方豪族の
戦の場でもあったこの地域の歴史を
その名に刻んでいるように思えてならない。
3つのピークは、何度登ったところで
鏑の文字のほか何も語らないのだが、
それでもいいのだ。
ただ、無性にかきたてられるのだ。
なかでもこの大鏑山、
鏑三山で唯一登山道がない。
地形図に記されている点線は廃道である。
そして最短距離を鬼首道路から
取ろうとすれば、軍沢川がそれを阻む。
なのでこの川を抱く谷をぐるっと
迂回して、雪を使って尾根をえんえんと
辿ることになる。
私の体力では日帰りはムリ。
テントを背負っての一泊行程となる。
2014年の夏に、山形県側の沢から
一度はピークを踏んではいるのだが、
当初計画した雪山ルートでの登頂を成功させたく、
そしてできれば単独登頂したく
今シーズン、再びトライした。
ーーーーコースタイムーーーーーー
07:42 鬼首トンネル宮城側より入山
08:47 林道クロス
08:15 P864
10:00 P954
11:15 県境889のコル
13:56 P1074
14:35 大鏑山
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

今シーズンは3月上旬に一度偵察で
鉄砲平を越えた県境まで入り、
その翌週に勇んでテントを背負って
トライしたものの、天候と雪の状態で
大幅にタイムロスして撤退。
来シーズンに持ち越しかと諦めかけたものの
この土日、行くなら今だ!と閃いて
最後のチャンスをものにするために
またいつもの鬼首道路脇にやってきた。
いざ!とザックを背負って行く手を見るなり
思わず「雪!」と叫ぶ。
雪がすっかり融けている。うかつだった。
まさかここまで融けているとは1ミリも
考えていなかった。

7時42分、
トンネル横のフェンスをすり抜けて尾根の先端。
雪が前提の今回の山行である。
まさかテント泊装備かついで薮こぎするとは
想定外である。もうこのまま帰って
プリズンブレイク一気観したほうが
よっぽどかいい休日になるんじゃないかと
本気で考えるも、少し登れば
雪が残っているはずだと、気持ちを切り替える。
それに
2013年5月にトライしたときは
薮こぎに加え、雨だった。
今日はかなりマシ。

薮をこいで100~150mほど上がると
雪が出てきた。よかった。

8時47分、林道クロスポイント。
3月上旬には妖怪のような迫力の雪庇があったが
もはや春である。

鬼首トンネル真上のピーク864手前。
幹が折れたブナ。3月には折れてなかったような。

9時15分、ピーク864から先、
鉄砲平手前までは
秋田県と宮城県の県境尾根を辿っていく。

お馴染みシンクロブナ。メジャー山域なら
夫婦ブナとか命名されるんだろうな。

シンクロブナを過ぎるとブナ林の山腹を登っていく。
県境はピークを辿るがそこは巻いて鞍部を目指す。
途中地形図には出ていない沢地形がある。
横切るのはちょっと気持ち悪いので
沢の手前で尾根に上がる。
沢の上には雪庇が見えるのでいい目印になる。
この山腹は、北側に崩壊地形があり
ルートの目印になるものの、
変化のない広い場所なので、帰りのために
ルート旗を設置。

9時44分、再び県境尾根と合流。
下り口にルート旗を2本置く。
この先は鉄砲平を過ぎるまでなだらかだ。
稜線に出ると、さすがに風があるのでウエアを調整。

そしてエネルギー補給。
一人歩きのときは食欲が出ない。
ちっとも食べたくないのだが、
シャリばてになるのは目に見えているので
ムリヤリにでも食べる。

10時、ピーク954。
ここは神室連峰のビューポイントだ。
本日も小又山から天狗森の稜線と、

梢の向うに親分もくっきりと!

あと少しで鉄砲平手前のブナ林だが、
尾根の雪はご覧の通り。再び薮漕ぎだ。

10時12分、薮を抜けてブナ林に到着。

ここからはコンパスセット。
そして、前回風に地形図を飛ばした失敗から
今回はこのように、地形図の袋を
コードでビレイ。

地形図で919ピークが記された鉄砲平へは
小さな沢地形を超えていく。
雪はまだしっかりしていたのでほっとした。

919のだだっ広い地形に登ると
これまた気持ちのいい平坦で
のびやかなブナ林が広がる。

コンパスなしでは怖いくらい
変化のない地形。美しい。

さて、一番の気がかりの小沢。
水が流れる音に、ひやっとしたが
雪は締まっていて通過できそうだ。
毎度ながらこの沢を渡ると、日常を離れ、
異界へ入っていくような気持ちになる。

11時19分、前回偵察で来た最終ポイント。
小さな平たいピークに
枝をうねらせた大きなブナが立つ。

ここから先は、私に取っては未踏ルート。
2013年に諦めた稜線にやっと入っていくのだ。

11時37分、889のコルを超えた先の
ピークは雪庇の壁に阻まれ
登れなかったので巻いた。
写真は振り返ったそのピーク。

この稜線はアップダウンがあるものの
途中のコルがなだらかで気持ちいい。

広い尾根にはルート旗を打つ。
P1009に出る。12時14分。
大鏑山がすぐそこだ。
今日は途中にテント泊して明日、登頂予定だが
予定よりだいぶ早い。
何だか今日のうちに行けそうである。

P1009を過ぎるとまた薮である。
横に雪庇が落ちたあとの雪があるが
状態が見えず、安全確認ができないので
薮道を選ぶ。
下りなのでまだマシだが
明日、この薮をこいで登り返すのか。

薮を抜けるとだだっ広い雪のピーク。
952コル手前の小ピークだ。
12時26分。予定ではこの直下にあるブナの
林をテント場とし、一日目の行動終了だが
予定より1時間以上も早い。

なかなか気持ち良さそうなテントサイト。
ここにテント設営し、
空身で大鏑ピストンも考えたが、
そうなると微妙に時間が足りない。
そしてこの先を単独での空身でと考えると、
何かあったときのリカバリーが厳しい。

なので、一泊装備を背負ったまま
今日のテント予定地を過ぎて先へ。
こちらも気持ちのいいブナ林。

地形図で崩壊マークのあるピークに出ると
再び薮である。こうも薮が出ていては、
今週でこのルートはラストチャンスだな。
薮こぎしながら思った。

13時56分、大鏑山の肩、ピーク1074。
だだっ広いピークで神室連峰の
見晴らしが素晴らしい。

親分とその仲間達がぐるりと。

南は最上の町だろうか。

そして小鏑山こと、禿岳。
いやはや素晴らしい場所だ。
今日は絶対ここに泊まるわ。
スマホの電波も入るし。

あとはこの先に大鏑山である。

なだらかだが、あの先がピークである。
2014年に沢から詰め上げて踏んだピークである。

14時35分、薮が見事に雪でパックされた、
だだっ広い大鏑山の山頂である。
三角点は手前の、矮小ブナの中ではあるが
雪のせいかここが一番高い。
大鏑山を知って5年、やっと
思い描いたルートを使っての登頂が叶った。

細いブナの向うに、鏑山こと神室山。
小鏑山もこの正反対にあるが
ブナに隠れてしまっている。
それでも鏑三山は、地形図通りに
直線上に並ぶことをこの目で確認できた。
我ながら何と言うマニアックな歓びだろうか。





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